無線給電に光の出番はあるか

 通信分野ではスマホや無線LANなどの普及によって、ケーブルで配線するという場面が減って来ました。一方、電力は未だケーブルで繋ぐのが一般的です。しかし、最近ではSuicaなどのICカードやスマホにおいて無線給電が実用化され、当たり前のように使われています。むしろ当たり前すぎて、無線給電が使われているなんて、知らない人の方が多いのではないでしょうか。
 ただし、電気自動車(EV)などへの大電力の給電については、未だ太いケーブルに頼っているのが現状です。ところがそれを無線で、しかも走りながらでも行なってしまおうというアプローチが提案されていて注目を集めています。通信に加え、最後に残された有線とも言うべき電力も無線で自在に繋ぐことができれば、これまでとは全く違う新しい社会が実現できるのではないでしょうか。

参加者は優に180名超え

参加者は優に180名超え

 無線給電の領域では現状、電磁誘導やマイクロ波などを利用した方式が主流となっています。では、その無線給電の世界に光技術はどのように係わることができるのか? このチャレジャブルなテーマを掲げた研究会が、6月13日(火)東京工業大学・蔵前会館くらまえホールで開催されました。
 主催したのは応用物理学会・微小光学研究会。144回目を迎える今回の微小光学研究会のタイトルはズバリ「無線給電に光の出番はあるか」。この刺激的なテーマに興味を持つ人は非常に多く、参加者は優に180名を超えました。

 電磁誘導やマイクロ波などに光無線給電が加わることで、無線給電の適用範囲はさらに拡がると期待されています。今回のプログラムは以下の通り、ざっと見て前半が研究開発の進む無線給電技術の経緯・動向について、後半が光を用いた無線給電で、光の出番を模索するといった構成になっていました。

・開会のあいさつ:中島啓幾氏(早大)
・無線化社会を拡げる光無線給電:宮本智之氏(東工大)
・無線給電特許へ光の出番:横森清氏(JST)
・特別講演 宇宙太陽光発電とワイヤレス給電:松本紘氏(理研)
・小形機器向けMHz帯磁界結合ワイヤレス給電技術:細谷達也氏(村田製作所)
・EV用ワイヤレス電力伝送技術の最新動向:高橋俊輔氏(早大)
・KTN結晶を用いた光ビームスキャナーとその光無線給電応用の可能性:藤浦和夫氏(NTT-AT)
・光無線給電用の太陽電池には何が必要か:宮島晋介氏(東工大)
・太陽光励起レーザー/単色光型太陽電池結合発電と自動車へのレーザー給電の可能性:伊藤博氏(名大)
・光無線給電によるナノレーザーとバイオセンサ応用:馬場俊彦氏(横浜国大)
・宇宙太陽光発電におけるレーザー無線電力伝送技術:鈴木拓明氏(JAXA)
・閉会の挨拶:横森清氏(JST)

 丸一日かけた講演すべてをここで紹介するとかなりの長文になってしまいますので、私の独断と偏見で印象に残った講演を二つだけ紹介することをお許し願いたいと思います。

(1)東工大・宮本智之氏

東工大・宮本智之氏

 今回の企画は、東工大の宮本氏が中心になってコーディネイトされたもの。その宮本氏は、トップバッターとして全体を俯瞰する講演を行ないました。宮本氏は、無線化社会への期待と無線給電の現状を述べるとともに、光無線給電の優位性と技術課題を考察、その事例を紹介しながら、光無線給電は新しいサービスや新しい産業を創出するポテンシャルを有していると述べました。
 しかしながら課題もあります。光無線給電はサイズ・伝送距離に優位性はあるものの、レーザー光源や太陽電池のより一層の効率向上が必要であり、かつ安全対策も重要な課題の一つだと指摘しました。現実的には、技術要素はあるもののその取り組みは未だごく僅かだとのことです。今後、光無線給電と既存の方式を組み合わせて、新しい機器・サービス・インフラ開拓などにより真の無線社会の創出を期待すると抱負を述べました。

 特別講演を行なった理研の松本氏の講演内容は、宇宙太陽光発電(SPS)の必要性を文明論を絡めながら説く、大変スケールの大きなものとなりました。松本氏は、エネルギー資源や鉱山資源の残余年数と人口爆発に関するデータを示しながら、地球型文明と人類は危機に瀕していると指摘します。そして「我々は生き残れるのか」と問いかけます。
 解決策として、地球の50万倍もの資源と広大な空間を有する宇宙空間の利用、そのための宇宙開拓を提唱します。そして、当面の1000年は太陽系を開拓すべきだと述べました。ご自身は若い頃に「太陽系を食べたい」というちょっと変わったキャッチコピーを標榜していたそうですが、それを示しながら早急にSPSに取り組むべきだと述べていました。
 松本氏は、マイクロ波伝送を用いたSPS実現に向けた技術的課題を、1万トンに及ぶ宇宙システムと数10億個の素子が必要な宇宙空間に浮かぶ直径数kmの送電アンテナや地上の受電アンテナを如何に作るかだとしました。さらに、自身のマイクロ波伝送研究も振り返りながら、我が国の宇宙基本計画やエネルギー基本計画におけるSPSの位置付けが最近、若干後退しているのではないかとの印象も述べていました。
 松本氏は講演の最後で、人類の生き残りのためには欲望の暴走を抑えなければならないとして「科学技術」と「こころ・精神文化」の調和が必要だと警鐘を鳴らしました。そして、これからは統合の科学が必要であり、それには「日本的調和のこころ」と「東洋的共存の哲学」が重要になるとも述べました。
 さらには、21世紀の方向性は「単純から複雑へ」、「平衡から非平衡へ」、「要素からシステムへ」、「西洋から東洋へ」、「地球から太陽系へ」移っていくと指摘。最後に「未来は、予測するものではなく、自分たちで設計し、創るもの」であると強く述べ「百聞は一見に如かず」という諺に掛けて「百考は一践に如かず」という言葉で講演を締め括りました。

 前述の宮本氏は、光無線給電に関する人や情報の集まる場を準備し、社会への浸透とそれによる社会・経済の変革に向けた枠組み作りをサポートするため「光無線給電検討会」を立ち上げ、2016年1月の第1回以来、これまでに11回の検討会を開催するなど、積極的に活動を続けてきました。7月初旬にも次の検討会の開催を予定しているそうですので、興味のある方は、事務局 tmiyamot@pi.titech.ac.jp まで、ぜひ連絡をしてみては如何でしょう。

 会場で配布された微小光学研究会機関誌の巻頭言の文末には、こう記されていました。「今は普通にある機器から伸びる『尻尾』を、「これはいったいなんだ」と若者に思われる世の中の到来を楽しみにしたい」と。

 次回・微小光学研究会は9月26日(火)、東京大学・先端科学技術研究センターにおいて「今が旬のスマートセンシング・イメージング(仮)」をテーマに開催される予定です。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

レーザーで綺麗に

DSC05257 先日、東京ビッグサイトで開催された「2017 防災産業展 in 東京」で、ちょっと面白いものを見つけました。レーザークリーニング装置のヘッド部分で、展示されていたのは鈴与建設とフォーカス・エンジニアの共同ブース。装置を開発したのはトヨコーという会社で、フォーカス・エンジニアはトヨコーと鈴与建設が共同出資して設立したレーザークリーニング工法による構造物の施工事業を行なう会社です。
 
 塗膜や錆の除去には、これまで対象物にケイ素を吹きつけてクリーニングを行なうブラスト処理や剥離剤による方法が用いられてきました。しかしながら、これらの方法では産業廃棄物が出て処理コストが高額になってしまったり、複雑に入り組んだL字部分やボルトの付け根等では処理に時間がかかってしまうという問題がありました。また、ブラスト処理を行なうと塗膜や錆と同時に下地まで削り取ってしまうので、対象物が傷ついてしまうという問題もありました。

 これに対しレーザークリーニング工法は、レーザー光を直接照射するため、入り組んだ部分に対してもスムーズに短時間で作業ができ、塗膜や錆を溶融・蒸散させながら微粒子を集塵機に吸い込むことで産業廃棄物の発生量を抑え、処理コストを大幅に削減できます。また、瞬時に高温・高圧で一気に除去するので下地を傷めることがなく、除去後に形成される安定酸化被膜による防錆効果で対象物を延命させることもできます。工場内の大型設備の錆取りなど、耐用年数が気になる設備のクリーニングに適しているというわけです。

 同社のレーザークリーニング装置「CoolLaser」はハンディタイプで、ファイバーレーザーの光をヘッド部分で特殊なプリズムに透過・屈折させ、高速で回転させることで円形に照射するという仕組みになっています。これをスライドさせることで面照射を可能にしました。反力が発生しないので女性でも作業ができ、ロボットを使った作業なども行ないやすくなるということです。廃棄物はブラスト処理に比べ100分の1以下とのことです。

 同社は、平成20年から光産業創成大学院大学の藤田和久教授と沖原伸一朗准教授との共同研究をスタートさせたそうです。
 現状ではCWレーザーを用いていますが今後、パルスレーザーを利用して熱ひずみを減らし、版金など薄物への対応や、周波数を変えてカーボン素材表面にダメージを与えないレーザー除去、水中透過率の高いレーザーを用いた海洋土木の表面クリーニングや造船への適用など、その可能性を拡げて行きたいとしています。 
 また、浜岡原子力発電所1号機と2号機の廃炉に向けた二次廃棄物、遠隔操作、処理速度、粉塵飛散防止に関する技術開発を、中部電力、光産業創成大学院大学と共同で進めていて今後、装置の具体化に向け開発を行なっていく計画もあるそうです。

 実用化に関する今後の課題は、レーザー施工現場を念頭に置いた装置や作業面での安全性の確立とのことです。膨大な費用がかかると言われる老朽化した日本のインフラへの適用など、レーザークリーニング技術の進展に注目したいと思います。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

AI、IoTにフォトニクスは如何に貢献するのか

DSCN1048 新緑が目に眩しい5月22日(月)、東京大学・駒場リサーチキャンパスENEOSホールで、第3回フォトニクスイノベーション・ビジョンワークショップが開催されました(主催:東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構)。今回のテーマは「AI-IoT時代に向けたコンピューティング技術とフォトニクス」。いま一番ホットな話題となっている技術領域におけるエキスパートから、最新の研究トレンドとフォトニクスへの期待が語られました。
 
 ワークショップの趣旨説明に立ったのは、東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長の荒川泰彦氏。AI、IoT、ビッグデータは、現代の三種の神器とも言われていますが、その進展を支えるのはハードウェア。特にLSIの進歩が果たす役割には非常に大きなものがあります。しかしながら、その技術進歩の指標となっていたMooreの法則は、いま飽和状態に陥りつつあると言われています。このような状況だからこそ、光インターコネクションとそのデバイスに対する期待はますます大きくなっています。荒川教授は、超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクトを紹介するとともに、この4月にそこから生まれた、5mm角IOコアを製造・販売する新会社「アイオーコア」についても紹介しました。

 講演トップバッターの国立情報学研究所・所長の喜連川優氏は、ビッグデータが拓く新たな社会価値の創造について述べました。全国の主要大学等を100Gbpsで結ぶ100GNET(SINET5)が昨年構築されましたが、喜連川所長はクラウドコンピューティングが主流となっている状況でトラフィックが急伸する中、クラウドへの接続が如何にスムーズに行なえるかは、国家としての重要課題だと説きました。また、海外の裁判において人間ではなく、ソフトウェアが6年の懲役刑を下したという事例を紹介、これには時代はそこまで来ているのかという印象を持たざるを得ませんでした。喜連川所長は、もはやビヨンドAIを考えるべきと述べ、日本の国土モニタリングの先進性も紹介、米国DOEの次の狙いにも注視すべきとして、クラウド内における通信の高速化は必須である故、通信にはいくらでも頑張ってほしいと、期待を述べていました。

 東京大学大学院工学系研究科・教授の松尾豊氏は、コンピューティング技術の進化とAIについて、特にディープラーニングを取り巻く状況について述べました。AIブームは1956年からの第1次ブーム、1980年代の第2次ブーム、そして2013年から今日までの第3次ブームと、3回のブームがあったそうで、現在では何ができて何ができないか、すでに固まっている状況とのこと。画像認識の世界においては、コンピューターは人間のエラー率5.1%を2015年2月には越えてしまい、最新の値では3.1%までに到達しているそうです。松尾教授は、カンブリア紀に生物が眼を獲得したことで進化が爆発的に進んだカンブリア爆発を例に、機械・ロボットにおいても眼を持ったことで同じ事象が起きていると指摘、視覚野としてのディープラーニングと網膜としてのイメージセンサーの組み合わせで、産業の自動化が実現できると述べていました。

 東京大学・情報基盤センター長の中村宏氏は、2016年度に同センターが導入したスーパーコンピューターOakforest-PACSとデータ解析・シミュレーションの融合を目指すスーパーコンピューターReedbushを紹介しました。Oakforest-PACSは理論性能25PFLOPS、Linpack性能13.5PFLOPSで、世界のコンピューターランキングTOP500で6位、国内では最高速の性能を誇っています。メニーコア型プロセッサーを搭載していて、汎用性を重視して柔軟な運用ができるそうです。HPIC(ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)の中核をなすもので、全国の主要9大学が使用する最先端共同HPC基盤施設となっているとのこと。ビッグデータの解析や人工知能といった新しい分野の要求を満たすことを目指しており、中村センター長は講演の中でバンド幅が重要と述べていました。

 東京大学生産技術研究所・教授の平本俊郎氏は、Mooreの法則以降のLSIのトレンドとIoTについて述べました。Mooreの法則やスケーリング則をベースとしたLSIデバイスの指数関数的な進歩は曲がり角を迎えており、半導体技術ロードマップ(ITRS)も一定の役割を終えたと言われています。Ai-IoT時代のLSIに要求される機能は、従来の単なる高速性ではなく、各種センシング技術、脳を模した情報処理、数桁の電力低減などであり、その多くは従来技術の延長では達成は不可能といいます。平本教授は、今年の3月、10nmにおいて三つの新技術を開発、5nmは見えたとしてMooreの法則は続くと主張するインテルの考え方を分析するとともに、日本メーカーにはインテルとは違ったビジネスモデルが必要と指摘。28nm、200mmウェハを用いた安価なデバイスが一つの解ではないかと指摘しました。さらに、LSIの進展にはこれまで通り、新しい技術の継続的導入が必要と述べ、電源電圧の低消費電力化が重要であり、特にスタンバイパワーの低減に関しては不揮発性メモリーが有力だと指摘しました。

 光電子融合基盤技術研究所(PETRA)・主幹研究員の森戸健氏は、コンピューター性能の向上に向けたフォトニクス技術について、ネットワーク技術、特に光インターコネクト技術によるデータ伝送の高速・大容量化は不可欠とした上で、同研究所におけるシリコンフォトニクスと高密度実装を基盤としたプロセッサー間光インターコネクト技術の開発の現状と動向を報告しました。森戸主幹研究員は、開発によって光トランシーバーに対する低電力化・小型化に対する要望に応えたいと述べるとともに、今後はCバンドを使ったWDM技術によって大容量化を実現したいとして、低レイテンシーで波長ルーティング機能を併せ持ったデバイスの実現を目指すとしました。光電子集積インターポーザーを第3期の基盤技術として開発する計画とのことです。

 講演終了後、東京大学生産技術研究所・准教授の岩本敏氏の司会のもと、講演者全員によるパネルディスカッションが行なわれました。時には耳が痛い意見も出ていましたが、それはそれで真摯な議論が交わされたという証しとも言えるでしょう。個人的にですが、印象に残ったいくつかの発言を取材メモから紹介します。

・ミシュランで星を獲得している店が日本には多い。調理ロボットとメニュー配信ビジネスによって、日本は食のプラットフォームを獲得できる。
・日本企業は受託生産が出来なかったし、設計するものが日本からなくなってしまった。そういう状況で日本企業は模索している。
・日本企業から寄せられる質問は質が低い。それに比べ海外企業は戦略的であり、お金もかけている。アプリケーションも見ていて、レベルの高い戦いをしている。
・設計者から攻めるべきで、設計者が認めればデバイスも動く。
・産業の全体像を掴んでおくべきで、どこかにチャンスはあるはず。どこかのレイアーを獲ればひっくり返すことができる。
・協業する時に一番苦労するのは日本企業、グローバルな方が楽だ。
・問題意識を共有する場がない。
・あらゆる場で光は沸騰している。

 PETRA・専務理事の田原修一氏による閉会挨拶の後、会場を移して行なわれた懇談会でも、講師の方々を交えた活発な議論が交わされていました。

 ニーズ側の状況を把握していないシーズ研究は、ともすれば独り善がりになってしまうと良く言われます。その意味からも、ニーズとシーズ双方が議論できる今回のようなシンポジウムは大切で、今後も継続的に開催してほしいと思いました。さらに、議論をシンポジウムという場だけで終わらせるのではなく、例えば定期的な個別な場で、より具体的に議論を擦り合わせ、今後の研究に役立ててもらいたいなどと思う次第です。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート, 未分類 | コメントする

光メモリの生きる道

 5月10日から12日までの3日間、東京ビッグサイトで「データストレージ EXPO」が開催されました。この展示会は「Japan IT Week 春 2017」を構成する複数の展示会の内の一つで、規模はそれほど大きくないのですが、当然光ディスクも出展されているだろうと、行ってきました。
 光ディスクは、パソコンやスマホなどに使われているハードディスクや半導体メモリの影に隠れて、最近ではあまり目立たない存在になっているようです。個人的には少し寂しい感があるのですが、一方でその長期保存性が買われて、データセンターなどにおいて、普段あまりアクセスしないコールドデータを保存したり、放送局などのアーカイブ用に結構使われています。会場を歩いて見つけた光ディスク・システムを紹介します。

ソニー ソニーのオプティカルディスク・アーカイブは、堅牢性が高い複数枚の業務用光ディスクを格納したカートリッジと、これを制御する高速ドライブからなる光ディスクストレージシステムです。2012年の発表以来、放送・業務用映像アーカイブを中心に、金融機関、教育・研究機関などに採用されているそうです。
 ディスクには、パナソニックと共同開発した業務用次世代光ディスク規格「アーカイバル・ディスク」を採用しています。その進化は現在第2世代に入っていて、両面合計6層構造とランド&グルーブ方式による高密度化で、1枚当たり300GBの光ディスクを11枚を収容してカートリッジ1枚で3.3TBという大容量化を実現しました。
 高速化については、8チャンネル光学ドライブを搭載したユニットを新たに開発。これは、表裏4個ずつ合計8個のレーザーヘッドでディスクの両面を同時に読み書きするというもので、読み出し転送速度2Gbps、書き込み転送速度1Gbpsを実現しています。ちなみに「アーカイバル・ディスク」の第3世代では容量が5.5TB、読み出し転送速度3Gbps、書き込み転送速度は1.5Gbpsになるそうです。
 長期保存性についても、第1世代が50年以上だったものが、第2世代では100年以上に伸びています。ライブラリーの拡張性については、カートリッジを30巻搭載する99TBタイプから535巻を搭載する1.7PBタイプまで、柔軟にシステムの拡張ができるとのことです。無通電でカートリッジを管理できるので、1.7PBのストレージをわずか700W程度の消費電力によって管理でき、大幅なトータルコスト削減を実現できるということです。
 同社では、ロボットを使ったさらに大規模な光ディスクライブラリーシステム「EVERSPAN」の技術紹介も行なっていて、光ディスクに注力する姿をアピールしていました。

三菱ケミカルメディア 三菱ケミカルメディアは、パイオニアと共同でアーカイブ用光ディスクと光ディスクライブラリーを出展しました。両社は、光ディスクアーカイブシステムを推進するために2012年、推進団体「OPARG」を設立しています。
 光ディスクの開発・製造を担当する三菱ケミカルメディアの業務用ブルレイディスク(BD)は、第三者機関であるADTC(アーカイヴディスクテストセンター)によってBD-Rの100GBモデルで推定寿命200年以上という評価を得たとしています。耐久性についても、1週間の海水浸漬試験でデータ再生が可能であることを確認しているそうです。一方のパイオニアが開発した光ディスクアーカイブシステムは、この光ディスクとRAID(安価で低容量なハードディスクを複数使った補助ストレージ装置)を組み合わせたものとなっています。

ユニテックス この他、ユニテックスはLTO(Linear Tape Open:コンピューター用磁気テープのオープン規格)装置を展示する傍ら、CD/DVDディスクパブリッシャーも出展していました。ヘッドを変えることでBDも使用できるというもので、データの書き込みからレーベル印刷までを100~200枚連続高速処理ができるそうです。
 
 

 音楽や動画などをパッケージメディアで楽しむ人は、以前よりだいぶ少なくなりました。その結果、光ディスクはメモリーにおける主役の座を譲った感もありますが、一方で長期信頼性というような特長を活かした適用分野において、決して派手ではありませんが、とても重要な役割を果たしています。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

光の日

 3月8日は「光の日」ですが、その日がなぜ「光の日」になったのか、由来をご存知でしょうか? 答えは、光の速度が3×10の8乗m/sで、その数字の中から「3」と「8」をとって「光の日」としたそうです。制定したのは日本学術振興会・光エレクトロニクス第130委員会(学振130委員会)で、制定した2007年以来いろいろな活動を行なってきたということです。
 今年の「光の日」には、同委員会と日本光学会、レーザー学会、応用物理学会フォトニクス分科会の主催によって、東京・茗荷谷の筑波大学東京キャンパスで第1回の「光の日」合同シンポジウムも開催されました。
 
 光は医療やエネルギー、情報、通信、一次産業、天文、建築等に関わるあらゆる科学技術に応用され、人類の幸福、芸術、文化などの発展に貢献してきました。そして、今後ますますの進展が期待されています。
 まだ記憶に新しい2015年の国際光年では、内外で様々なイベントが催されましたが、このシンポジウム、国際光年終了後も継続して振興を図ろうと、これら光関連学会が毎年3月8日に合同記念イベントを行なうことを提案して、開催に至ったそうです。

 シンポジウムは、宮本智之氏(東京工業大学・准教授)の「開会の辞」で始まり、小林駿介氏(山口東京理科大学・名誉教授)の「『光の日』制定について:フォトンの不思議と恩恵」、中井直正氏(筑波大学・教授)の「南極で切り開く天文学-南極望遠鏡計画-」、美濃島薫氏(電気通信大学・教授)の「光コムによる光波の超精密制御とその応用」、石川哲也氏(理化学研究所・放射光科学総合研究センター長)の「X線自由電子レーザー(XFEL)施設『SACLA(さくら)』」、河田聡氏(大阪大学・教授)の「光の顕微鏡:収差と波長の壁を超えて」、荒川泰彦氏(東京大学・教授)の「量子ドットがもたらす光技術の新展開」、伊賀健一氏(東京工業大学・名誉教授)の「光の日、音の日:光エレクトロニクスの玉手箱より」と続き、神成文彦氏(慶應義塾大学・教授)の「閉会の辞」で幕を閉じました。講演終了後は、場所を茗渓会館に移して懇親会も開かれ、出席者全員で「光の日」をお祝いしました。

小林駿介 山口東京理科大学名誉教授

小林駿介 山口東京理科大学名誉教授

 「光の日」制定を提案した学振130委員会の当時の委員長、小林名誉教授は当時を振り返り、同委員会の45年間の研究活動記録CDの序文に記された制定趣旨説明文を紹介していました。そこには、こう記されていました。「ここで、われわれは、光の科学技術を研究している者として、われわれは光に感謝し、敬意をしめし、かつ親しみを込めて、3月8日を「光の日」とすることに決定しました。3月8日を「光の日」と選んだ理由は光の速さが真空中で3×10の8乗m/sであり、光は吸収されない限り休むことなく走り続けるからです」と。

 荒川教授によると、日本学術会議総合工学委員会ICO分科会ではメイマン氏がレーザー発振に成功したと言われる5月16日を「国際光デー」にすると決めたそうです。
 そうなると、国内と海外で「光の日」が二日あるということになりますが、あまり細かいこと言わないで、めでたい日が一年に二日もあるという感じで捉えて、どちらも大事にしていきたいと思いますね。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

光技術は医療・ヘルスケアをどう変えるのか

 安全・安心で持続可能な社会を実現するためにも、医療分野と工学の連携による新しい診断、治療、ヘルスケア機器の開発が必要と言われています。その最先端研究の一端が、秋葉原UDXカンファレンスで開かれた第6回電子光技術シンポジウム(主催:産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門、共催:光産業技術振興協会(光協会))で披露されました。
 
 産総研・電子光技術研究部門では電子技術と光技術、およびその融合領域に関する最先端の研究開発と新産業創出の展望に関する情報を提供するため、同研究部門を中心とした産総研の研究成果を紹介するシンポジウムを毎年開催しています。今年度のテーマは「光技術の医療・ヘルスケアへの展開」、5件の招待講演を含む10件の口頭発表が行なわれました。
 

開会挨拶をする金丸正剛氏

開会挨拶をする金丸正剛氏

 
 「開会挨拶」に立った産総研・エレクトロニクス・製造領域長の金丸正剛氏は「研究開発側から見ると、医工連携がこれまでなかなか進まなかったのは技術がまだまだ成熟しておらず、現場で使うには十分でないということも大きな原因ではなかったかと思っている。今回のシンポジウムでは産総研における十数年の開発の中で、技術的にもかなりの進歩を遂げ、実際の現場との連携も非常に活発化しているという状況を知っていただきたい」と述べていました。
 
 
 一方、続いて登壇した光協会・専務理事の小谷泰久氏は「これまでのクラシカルな光技術領域では、技術が成熟して新しい動きが出にくくなっている。その代わりにIoTやAI、ロボット、自動車、医療・健康分野などへと応用領域は拡がっている。気をつけるべきは、光技術はこれまで最先端の性能を追い求めてきたが、例えば自動車や医療分野ではそのような性能より温度環境性や安全性・信頼性といったものが重要視される。求められるものが移ってきている」と述べていました。

 午前中の口頭発表のトップバッターは、産総研・健康工学研究部門・副研究部門長の鎮西清行氏で、講演タイトルは「医工連携における産総研の活用方法」、産総研における医療機器開発支援システムを紹介しました。続いて「光を用いた生体計測-細胞から個体まで-」を浜松ホトニクス・中央研究所・主幹の山下豊氏が講演。その後、産総研・電子光技術研究部門の黒須隆行氏による「光パスネットワークによる超高精細映像伝送とその医療応用」の講演が行なわれ、光による細胞・個体計測や8K画像を使った遠隔医療などが紹介されました。
 
 昼食をはさんで、午後は「レーザによる革新的な非熱的不整脈治療装置:我が国発技術の実用化」と題し、慶應義塾大学・理工学部・教授の荒井恒憲氏が不整脈治療装置の開発事例を紹介。続く産総研・電子光技術研究部門の研究成果報告では「低侵襲プラズマ止血装置の開発・実用化と国際標準化」(榊田創氏、池原譲氏)、「超短パルスレーザー加工と人工関節への応用」(屋代英彦氏)、「白色パルス光プロセスと無電解めっきを利用した手術器具作製」(島田悟氏)が紹介されました。

 休憩の後、オリンパス・モバイルシステム開発本部・部長の溝口豊和氏は「マルチスペクトル撮像デバイス技術」を講演、マルチスペクトル撮像によるデジタル病理診断を紹介。大阪府立大学・大学院工学研究科・教授の久本秀明氏は「医療・バイオ分析応用を目指す高機能材料集積型マイクロ分析デバイス」の中で、化学修飾したキャピラリー型マイクロ分析デバイスを紹介して、最後の講演は産総研・電子光技術・研究部門の安浦雅人氏による「近接場光を利用した微生物高感度検出」、光散乱の光信号用微粒子と磁気微粒子を使った微生物検出の研究事例を紹介しました。
 
 広帯域で低侵襲、空間並列といった特長を有する光技術は、イメージング機器として医療現場で幅広く利用されるとともに、新たな医療・ヘルスケア機器を創出することが期待されています。今回のシンポジウムで紹介された医工連携や光技術を用いた低侵襲治療技術、革新的デバイスや手法を用いたイメージング・センシング技術等の研究開発動向には今後も目が離せません。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

自動運転技術進展の鍵を握るフォトニクス

 いま一番ホットな話題の一つとして取り上げられることの多い自動運転。リーガロイヤルホテル東京(東京 新宿区)で開かれた「平成28年度光産業技術シンポジウム」(主催:光産業技術振興協会、光電子融合基盤技術研究所)では、この自動運転やロボットなどの領域にフォトニクス技術がどのように適用されて行くのか、最新の状況が紹介されました。
 シンポジウム今年のテーマは「未来の自動車・ロボット・産業機械を支えるフォトニクス」。自動運転とセキュリティ、ロボットの進化、LiDAR技術、自動車フォトニクスのテクノロジーロードマップ、医療イメージング、さらに光エレクトロニクス実装システム技術の開発について、各分野のエキスパートが講演を行ないました。

 冒頭、「開会挨拶」に立った光産業技術振興協会・専務理事の小谷泰久氏は、政府の掲げる日本再興戦略の中で日本経済の未来を切り開く第4次産業革命の重要技術であるIoTや人工知能、ビッグデータといった革新的技術を使って如何に新しい商品やサービスを生み出すかが重要とした上で、光センサーや光通信ネットワーク、車載用カメラ、車載ネットワーク、医療・健康分野における画像処理技術といった様々な光技術は、そこで役に立つ技術であると述べました。

 経済産業省・商務情報政策局・情報通信機器課長の三浦章豪氏は「来賓挨拶」の中で、成長ががすべての前提であり、第4次産業革命、AI、IoT、ビッグデータを如何に社会に実装させていくか、言葉だけでなく実際に儲ける事を考えなければいけない時期に来ており、新しいビジネスモデルを作って行く必要があると述べました。また、日本としては最先端の技術を開発して、世界に先駆け商品化してグローバルに売って行くということを続けて行かなくてはならないとして、光技術にはまだまだ伸びしろがあり、最大限のサポートをして行きたいと述べました。

 この後に続く基調講演は「自動運転と制御系セキュリティ」と題して、電気通信大学・情報理工学研究科・教授の新誠一氏が講演。21世紀の自動運転に不可欠な技術として、高精度カメラと画像プロセッサー、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の組み合わせを挙げるとともに、光通信技術は近未来の自動運転車の電磁障害対策に効果的だと指摘。さらにサイバーセキュリティの確保も自動車業界にとっては急務であり、中期的に光化への期待が大きいと述べていました。

 招待講演は全部で4本。1本目の「Amazon Picking Challengeとロボットの進化」を講演したのはPreferred Networks・エンジニアの米辻泰山氏です。「Amazon Picking Challenge」というのは、Amazonが主催するロボットコンテストで、倉庫の棚から商品をピッキングするという作業をロボットで競うというもの。米辻氏のグループは短い準備期間の中、Pick部門で2位(得点は1位タイ)、Stow部門で4位という好成績を収めました。センサーにはDepthカメラとLiDARを使用、画像のセグメンテーション問題ではディープラーニングを用いたそうです。現在は製造業がメインのロボット適用の可能性を物流分野でも示せたと述べていました。

 「自動運転を実現するLiDAR技術」を講演したのは、パイオニア・自動運転事業開発部・技術研究部長の村松英治氏で、自動運転におけるLiDAR技術の役割と現状の課題を紹介。走行空間センサーとして周辺環境認識を行なう機能だけではなく、自動運転用高度化地図との組み合わせによる自動位置推定、地図生成を行なうLiDAR技術のコンセプトと同社の取り組みを解説するとともに、LiDARにおいては従来型のリッチな汎用センサーではなく、車載アプリに特化した小型で低コストな専用センサーが求められるとして、同社の開発事例を紹介しました。

 「光テクノロジーロードマップ-自動車フォトニクス-」を講演したのは、東京工業大学・工学院・電気電子系・准教授の西山伸彦氏。西山氏は、ロードマップを作った光産業技術振興協会の自動車フォトニクス・ロードマップ策定専門員会の議長。講演では、自動運転開発においてフォトニクスに何ができるかをテーマに話が進められました。車外状況検知用センサーでは、あらゆる状況でも遠方を監視することが求められ、将来的には赤外カメラも加わりカメラの高解像度化が進むとして、測距技術ではメカレス型のLiDARで解像点数、フレームレートの向上が進んで行くと述べました。HMI(Human Machine Interface)技術においては、レベル3では覚醒状態検知・判断の高速化が求められるため、表示技術の高度化・高解像度化が必要になる一方、レベル4になると、この表示技術は車内エンタテイメント用で使われると述べました。さらに通信技術においては、車内では400Gbpsクラスの光ハーネスの実現が必要であり、車外においては低遅延で小規模大量パケットなど、従来のインターネット通信に加えた特殊な通信が必要と指摘しました。

 招待講演最後は、メディカル・イメージング・ コンソーシアム副理事長の谷岡健吉氏による「8Kテレビ技術とその内視鏡手術への応用」で、8K技術の概説と医療応用での数々の利点、普及のための技術面での課題、展望を紹介しました。谷岡氏は、技術課題として超高感度な8Kイメージセンサー実現のためのHARPの固体化を挙げるとともに、ディスプレイにおいては価格や視野角、軽量化・薄型化においてまだ問題が残っているとした上で、慶應義塾大学の小池教授が開発した高性能プラスチック光ファイバーやボールペン型インターコネクト技術の適用や産業技術総合研究所の「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」との連携によって、8K遠隔医療の実現を図りたいと述べていました。

 最後の講演は、光電子融合基盤技術研究所・CPU間インターコネクト・テーマリーダーの土田純一氏の「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発~光I/Oコアの性能とシステム評価」。プロジェクトの概要、光I/Oコア、光I/O付きLSI基板、光電子集積インターポーザ―を実現するための集積光デバイス技術の開発の狙いと開発進捗を報告しました。さらに、開発中のFPGA(Field Programmable Gate Array)と光I/Oコアを用いたボードの概要とシステム評価の進捗および今後の取り組みについても報告。具体的成果として、光I/Oコアにおいて低消費電力(5mW/Gbps)・超高速(25Gbps×12ch)のチップサイズ(5mm角)トランシーバーの実現、光I/Oコアを用いたMMFでの25Gbps、300m伝送の実現、FPGA周辺に光I/Oコアを実装してBtoB、300mの伝送実証等を挙げていました。

 今回のシンポジウム、あくまで個人的感想ですが、自動運転に関して重要なのはダイナミック・マッピングであり、少し大げさに言えば地図を制する者が自動運転を制するのではないだろうかという印象を受けました。

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏  写真左:後列左から 古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏  前列左から 櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏 光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏
写真左:後列左から
古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏
前列左から
櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏
光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

 なお、シンポジウムの終了後には、同じ会場で恒例の櫻井健二郎氏記念賞の受賞式が行なわれました。櫻井健二郎氏記念賞は今回で32回。応募13件の中から受賞したのは「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」を行なった古河電気工業の向原智一氏、木村俊雄氏、越浩之氏、黒部立郎氏の四名と「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」を行なった東京工業大学・未来産業技術研究所・教授/所長の小山二三夫氏でした。

 「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」では、デジタルコヒーレント通信用光源の開発に取り組み、多数のDFBレーザからなる多波長アレイと複数の光機能素子を同一基板上にモノリシックに集積する化合物光半導体技術や従来に比べパッケージ体積を半減化する樹脂接着技術、並びに高性能な制御電子回路技術の開発により、世界最高水準の高出力・高安定の狭線幅波長可変レーザ光源の実現に成功、デジタルコヒーレント通信の発展・普及に貢献したことが評価されました。

 もう一方の「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」は、伊賀健一・東京工業大学名誉教授(第3回:1987年度受賞)とともに面発光レーザ(VCSEL)の室温連続発振を1988年に世界で初めて達成し、以来その性能向上と新機能創出に関する研究を継続、MEMSミラーによる波長制御やスローライトなどの新機能を包含するVCSEL集積フォトニクスの道を切り拓き、データセンタにおける光インターコネクトや日本初のレーザプリンタなどの技術発展を触発、光産業技術の新しい展開に大きく貢献したことが評価されたものです。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

日本のイノベーションに光は見えるのか?

 先ごろ東京・大手町サンケイプラザで開かれた大阪大学フォトニクス先端融合研究センター主催による「第9回フォトニクスシンポジウム」。そこでは日本のイノベーションが抱える問題点や方向性が示されました。

 大阪大学では平成19年に「フォトニクス技術イノベーションの創出」をミッションに掲げ、文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点プログラムによって大阪大学フォトニクス先端融合研究拠点を創設。プログラムはこの3月をもって終了しますが、今回のシンポジウムはそれを記念して行なわれたもの。最後のシンポジウムに相応しい「フォトニクスとイノベーション」というテーマのもと開催され、その内容は基調講演、海外招聘講演、フォトニクスセンターの取り組み紹介、パネルディスカッション、ポスターセッション等、多岐に渡るものでした。

西尾章治郎 大阪大学総長

西尾章治郎 大阪大学総長

 開会の挨拶と最初の講演に立ったのは、大阪大学の西尾章治郎総長。西尾総長は「プログラムは今年度で終了するが、これまでの実績をベースに、さらに広範で大規模な事業化、産業化を推進するとともに、これからのさらなるイノベーション創出のシーズとなる基礎的なフォトニクス研究から研究成果の社会実装までをシームレスに遂行する教育研究施設として、来る4月から工学研究科付属フォトニクスセンターを新たに設置する」と表明しました。
 工学研究科内にセンターを設置したのは、卓越した知の拠点として産学官連携による共同研究の推進、国際的な研究拠点への進化を図るとともに、これら諸活動を通じて若手研究者の育成、特に産業イノベーションを創出する人材を次々に輩出できる体制を構築するためとのこと。その実現のために関連する専攻と密接に連携して推し進めて行きたいと述べました。

 来賓挨拶で登壇したのは、文部科学省の真先正人大臣官房審議官(科学技術・学術政策担当)。真先審議官は「産業界と国が一体となって作った本格的な取り組みである第5期科学技術基本計画では、超スマート社会を実現する『Society 5.0』の推進が提案されている。光量子技術はまさにそのプラットフォーム技術であり、強力に推進して行くべきと捉えられている」と指摘するとともに、そのためにも「人材育成、特に知的プロフェッショナルが求められている」と述べました。

 基調講演は2本。1本目は科学技術振興機構・顧問であり、科学技術イノベーション創出基盤構築事業の相澤益男運営統括(PD)による「産学連携のフロンティアを切り拓く先端融合領域イノベーション創出拠点」でした。相澤PDは、大変革の鍵を握るのは科学技術・イノベーションであるが、ゆゆしき問題が顕在化して来たと指摘します。
 その一つが、イノベーションにおける日本の国際的優位性の低迷。スイスのような経済小国がイノベーション強国として躍進し、世界におけるトップグループの座を譲らないという現状を踏まえ、世界におけるイノベーションは劇的に、しかも迅速に変化している中、世界を視野に日本のイノベーションを厳しく見直すべき時ではないかと指摘しました。
 二つ目に挙げたのが、科学技術論文に起こっている激震です。論文総数、トップ1%および10%引用論文の何れにおいても中国はダントツの勢い。ノーベル賞の受賞者については健闘しているものの、科学技術における日本の総合力の劣化は深刻だと警鐘を鳴らしました。
 その上で、日本が「抜本的に強化すべきは『イノベーションの源泉となる』基礎研究と人材育成」であり「さらに強化すべきは、本格的産学連携による『共創の場』を基盤とした持続的なイノベーションの創出と人材育成」で「その上で挑戦すべきは、世界を惹きつけるイノベーションハブとしての戦略強化だ」と述べました。

 基調講演の2本目は、大阪大学フォトニクス先端融合研究拠点を立ち上げ、初代拠点長を務めるとともに、フォトニクスセンター長も務めた河田聡大阪大学教授による「学問の壁の破壊と新産業の創出:阪大フォトニクスセンターの試み」。
 河田教授は、20世紀までの学問体系は「物理学」や「化学」といった縦割りであったが、20世紀後半には「Interdisciplinary」という概念が一般化、二つの学問を組み合わせる学問間連携の必要性が問われ、その研究が増えて行ったと述べます。
 ところが、日本人はこの「Interdisciplinary」という概念が得意ではなく、旧来の縦割り学問の中心にいたいと思う人の方が多く「Inter=間を繋ぐ」ことに興味を持つ人は多くないと感じたそうです。そもそも、間を繋ぐという意味の「Inter」が用いられている「Interdisciplinary」の日本語訳自体が「学際」。この「際」という言葉は、日本では「きわ」と読み、その意味は「端っこ」で、使われ方も「瀬戸際」「別れ際」「いまわの際」といったネガティブなものが多いと言います。これを当てはめた「学際」や「国際」という言葉では「きわ」と「きわ」の繋がり程度の意味しか持たないのではないかと指摘しました。
 河田教授は、21世紀は「Transdisciplinary」の時代であると述べます。それも「超学際」ではなく「学貫」というような概念で考えるべきで、単に組み合わせただけの融合では「端っこ」の人達は不幸だとします。
 オープンイノベーションについても、自身の経験から、単にそこに集まっている人達だけの、いわば「談合」になっている場合があるのではないかと警鐘を鳴らします。そして、こう指摘します。「本当のイノベーションはたくさんの人が集まって生まれるのではなく、一人から生まれる。本当の発明は予期せず、突然生まれるものだ」と。さらには、計画を作って計画通り実行するのではなく、余裕を持たせることができるかが肝要で、これからのイノベーションは、組織中心から人中心に考え方を変えなければならないと指摘しました。
 河田教授は、最後に老子の第57章に書かれている「為政者は何もするな。そうすれば人々は自らを正すだろう」という言葉を紹介するとともに、サン=テグジュペリの「船を造りたいのなら、男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに、彼らに広大で無限な海の存在を説けばいい」という言葉で講演を締め括りました。

 午前の最後に行なわれた海外招聘講演では、National Taiwan University, Academia SinicaのDin Ping Tsai教授とMax Planck Institute for the Science of Light, ErlangenのGerd Leuchs教授が、それぞれの国のフォトニクス関連研究を紹介しました。

 昼食後の午後の講演ではフォトニクスセンターの成果発表が行なわれ、井上康志フォトニクスセンター長がセンター全体の話を、協働企業の島津製作所の品田恵研究員が「ガスクロマトグラフ用プラズマフォトニクス検出器の製品化」と題し、商品化に至った共同研究内容を紹介。続いて森勇介大阪大学教授が「フォトニクス結晶のイノベーションで社会貢献」、高原淳一大阪大学教授が「ナノテクノロジーによる白熱電球の復活と起業製品化」を紹介しました。

 シンポジウム最後は、フォトニクス・イノベーションを如何に興していくかというテーマでパネルディスカッションが行なわれました。パネラーは、田中一宜産業技術総合研究所名誉リサーチャー、寺崎智宏文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課地域支援企画官、品田恵島津製作所研究員、河田聡大阪大学教授、田中敏嗣大阪大学工学研究科社会連携室長、井上康志大阪大学フォトニクスセンター長の面々。
 活発な議論の中でも、一人のパネラーから発せられた「新しいものを生み出すには、何かが終わらなければならない。その終わることを認めることができるのか。交代して行くという覚悟が日本にあるのか。今が恵まれているから失敗が怖いし、変化が怖いのではないか」という主旨の発言は、日本のイノベーションが持つ問題点を示唆するものでした。

 なお、ラウンジではフォトニクスセンターに参画する21の研究室によるポスターセッショが行なわれるとともに、夕方から行なわれた懇親会においても講演者と来場者との間で活発な意見交換が行なわれていました。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

進化したCEATEC JAPN

 10月4日(火)から7日(金)までの4日間、幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2016」。今年からそのコンセプトを大きく変え、これまでの先端技術家電の総合展から、未来を見据えたコンセプトや新しいビジネスモデルを発信するCPS/IoTの総合展に大きく舵を切りました。CPSとはCyber Physical Systemの略、Iotは言わずもがなInternet of Thingsのことです。

 出展社数・登録来場者数ともに、昨年に比べて大きく伸びました。出展者数は、前年比117社/団体増(22.0%増)の648社/団体に達し、登録来場者数も、前年比1万2,132人増(9.1%増)の14万5,180人となりました。海外出展者数についても、前回の19カ国/地域からの151社/団体が、24カ国/地域からの195社/団体に増えました。

 一般公開の前日10月3日(月)には、東京千代田区のパレスホテル東京においてオープニング・レセプションが開かれました。安倍総理大臣、高市総務大臣、世耕経産大臣等が会場に駆けつけ祝辞を述べ、その他、国会議員や多くの関係者を含む837名もの方々が参加しました。

 安倍総理は、以下のように述べています。

祝辞を述べる安倍総理

祝辞を述べる安倍総理

 「世界に第4次産業革命の波が到来しています。ビッグデータやAIを活用して、人や製品が従来考えもしなかった繋がり方をすることで、新たな価値を生み出します。第4次産業革命の時代、日本が培ってきた技術や強みはもう通用しないと言う人もいるかもしれません。しかし、私はそう思いません。例えば、第4次産業革命の鍵となる精密なセンサー、ロボットの繊細な制御などの技術、コツコツと改善を積み重ねる強い現場、お客様は神様と言われ、顧客の厳しい目に鍛えられ、技術として製品差別を磨き続ける力こそ、日本の強みです。
 第4次産業革命は、国民生活を豊かにしながら、企業の生産性を向上させます。その主役である皆様の新たな挑戦をサポートして行きます。先月立ち上げた未来投資会議を中心に、必要な改革を躊躇なく断行して行きます。
 例えば、官邸でデモンストレーションを見た8k技術の医療展開、血管の1本1本までくっきりと鮮明に映し出されていました。これを使えば、内視鏡などの手術の精度が飛躍的に高まり、患者さんの負担も軽くなる、そう確信しました。
 日本は少子高齢化、そして人口減少というピンチに直面しています。しかし、皆様の優れた技術と果敢なチャレンジ精神があれば、強い日本経済を必ず実践できると確信しています。まさに「ピンチをチャンスに」です。
 今年の5月、メルケル首相と私は来年3月にドイツのハノーバーで開催される展示会「CeBIT」において、日本がパートナー国となることに同意しました。これを受け、先ほどそのパートナー契約が結ばれました。
 モノづくりやIoT分野で競争力を有する日本とドイツが連携することが、この分野の世界標準の獲得に向けた大きな一歩になることは間違いないと思います。私と一緒に「CeBIT」に行きましょう。そして、世界が驚くような日本の技術を発信し、日独で世界の第4次産業革命をリードして行きたいと思います。
 IT、エレクトロニクス産業は100万人以上の雇用を支える我が国の基幹産業です。皆様の活躍なくして日本の経済発展はないのです」

 展示会場では各社のコミュニケーション・ロボットが目につきましたが、CEATEC JAPANに出展した中から、特に優れたイノベーションに対して贈られる「CEATEC AWARD 2016」のうち、経済産業大臣賞には富士通の「網膜走査型レーザアイウェア技術」が選ばれました。
 「網膜走査型レーザアイウェア」はQDレーザが開発したもので、超小型レーザープロジェクターから網膜に直接映像を投影するヘッドマウントディスプレイです。視力やピント位置に影響されにくいという特長から、視覚障害者(ロービジョン)に対する視機能支援として開発が進められています。
 眼のピント調整が不要なフリーフォーカス、突出部がなく自然な外観を実現するユニバーサルデザインなど種々の利点を有し、従来技術を置き換える可能性が大きいとして、ロービジョン者の視覚支援、AR/VRの高度利用など、多方面での活用が期待される重要技術との評価を得ての受賞となりました。光業界の人間としては、何とも嬉しい受賞です。

 なお、次回の「CEATEC JAPAN 2017」は10月3日(火)から6日(金)までの4日間、場所は同じく幕張メッセで開催される予定ですが、来年は「InterOpto」も会場を幕張メッセに移し、10月4日(水)から6日(金)の3日間の同時開催となるそうです。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: レポート | コメントする

2020年までのチャンスを掴め

 9月14日(水)から16日(金)までパシフィコ横浜で開催された「InterOpto 2016」(主催:光産業技術振興協会)。初日と二日目には毎年恒例の「光技術動向セミナー」と「光産業動向セミナー」が開かれました。今年は「光技術動向セミナー」に参加して来ました。

「主催者挨拶」をする小谷専務理事

「主催者挨拶」をする小谷専務理事

 今年の「光技術動向セミナー」では、光産業技術振興協会の小谷泰久専務理事が「主催者挨拶」を行なった後、日本電信電話 未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部の乾哲郎主任研究員による「光通信ネットワークの最新動向」、メルクの長谷川雅樹量子材料応用開発マネージャーによる「AR/VRと光技術応用ユーザインタフェースの最新動向」、産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 先進機能表面プロセスチームの山本典孝研究チーム長による「光有機材料・デバイスの最新動向」、沖電気工業 情報・技術本部 研究開発センタ ネットワーク・端末技術開発部の中村幸治主任研究員による「光無機材料・デバイスの最新動向」が続き、特別講演としては海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センターの川口勝義センター長代理が「光海底ケーブル技術を用いた観測システムと応用展開」を講演、続いて神戸大学 大学院システム情報学研究科 システム科学専攻の的場修教授による「情報処理フォトニクスの最新動向 − 光メモリ、光インターコネクション、光演算の最新技術 −」、レーザー技術総合研究所の藤田雅之主席研究員による「これからの光加工・計測、光医療のあり方 - その将来像とは -」、東京工業大学 工学院 電気電子系の山田明教授による「太陽光発電の最新動向」の講演が行なわれました。

 冒頭、「主催者挨拶」の中で小谷専務理事は「2020年東京オリンピックに向け、政府は情報ネットワーク等の大きなインフラ整備を行なう。また、放送分野ではNHKによる新規プロジェクトも実施される。2020年までのオリンピック景気は、ある意味チャンスであり、そのチャンスを掴むか掴まないか、日本企業にとっては大きな意味を持つ。日頃から切磋琢磨して開発している技術をいかに適用して市場を掴んで行くか、それが今後4年間の光産業の進む道だ」と力強く述べました。少なくとも2020年までは光産業にとって追い風が吹き、その中でいかにチャンスを掴めるか、日本企業の力量が試されることになりそうです。

会場風景

会場風景

 「InterOpto」は「BioOpto Japn」、「Laser Tech」、「LED JAPN」(主催:JTBコミュニケーションデザイン)と「MEMSセンシング&ネットワークシステム展」(主催:マイクロマシンセンター、NMEMS技術研究機構、JTBコミュニケーションデザイン)と同時開催される「All about Photonics」の中の一つの展示会として開催されたのものです。
 今回の展示会では、浜松ホトニクスのフォトニック結晶面発光レーザーダイオードやシャープの3波長一体RGB小型レーザーモジュール、旭化成の高出力殺菌用新紫外LEDなどを含め、いくつもの注目技術が出展されていましたが、UV-LEDについてはウシオ電機、日機装技研、ナイトライド・セミコンダクター、日亜化学工業、豊田合成といった各社も出展していて、今のLED分野における一つのトレンドとの感がありました。
 なお、来年の「All about Photonics」は会場を幕張メッセに移し、10月の第1週に開催されるとのことです。

編集顧問:川尻多加志

 

カテゴリー: イベント情報 | コメントする