管理・運営の時代を迎えた太陽光発電ビジネス

 4月に改正されたFIT(フィード・イン・タリフ)法では、電力買い取り価格の引き下げとともに認定の在り方が設備から事業計画へと変わり、かつそれが既存の認定案件へも適用されるなど、その内容は従来に比べ、より現実的なものになったようです。
 この改正FIT法によって9月30日までに提出しなければならなくなった事業計画の策定は「事業計画策定ガイドライン」に基づいて行なうもので、太陽光発電設備のO&M(運営・管理)が義務づけられたというところも、今回の改正の注目点と言えるでしょう。

 政治的なイデオロギーによって進められたのではないかと指摘する向きもある我が国の太陽光発電普及政策は、事業の開始時にではなく設備の認定時に電力の買い取り価格を決める「初めに普及ありき」というようなかたちで進められました。
 買い取り価格についても市場原理に基づいてではなく、正義の実現のためには高くても構わないという理念が優先され、決められたように思えてなりません。
 必然的に、太陽光発電ビジネスはバブルになりました。原発の稼働停止に伴う原油やLNGの輸入増加も加わって電気料金は上がり続け、結局そのしわ寄せは消費者に行くという結果ももたらしました。
 その後、政権交代による政策の見直しでようやく落ち着いた感もありますが、電気料金は今後さらに上がるという指摘もあり、これをどう収めるかという課題は残されたままです。
 
 そんな中、7月5日(水)から7日(金)の三日間、パシフィコ横浜において太陽光発電の総合イベント「PV Japan 2017」が開催されました。
 今回の会場で「おや?」と感じたのは、何社かの展示説明員の方が太陽光発電設備における事故について、特に隠すこともなく普通に話してくれたということでした。
 事故については、かつては質問をしてもなかなか答えてくれない、何かタブーのような雰囲気があるように思えたのですが、それが薄れ、これからは現実的で健全なビジネスを目指そうという姿勢が表れているように感じられました。
 背景には、やはり改正FIT法でのO&Mの義務化があるのではないでしょうか。実際、我が国には危険な造りの太陽光発電設備が多く、それは部材ではなく設計や施工などに起因するものが多いと指摘する人もいます。

 それでは、展示会で目についた企業の出展内容を幾つか紹介しましょう。もちろん、この他にもたくさんの企業が出展をしていたのですが、時間の関係で立ち寄ることができず、ここで紹介できなかったことをお断りしておきます。

(1)エクソル◆O&Mの義務化に対応するために、エクソルは「改正FIT法おまかせプラン」を打ち出していました。同社は、日本電気工業会と太陽光発電協会による「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」の作成にも参画。このプランは住宅から低圧、高圧、特高設備まで、同社のワンストップソリューションの強みを活かした総合メンテナンスサービスと位置付けられています。他社が設計・施工した既設の発電設備も対応するとのことです。ガイドラインに準拠した通常プランに加え、オプションとしてモジュールの洗浄、除草、駆けつけサポート、設備内容や注意喚起の標識設置、低圧用や高圧用フェンスの設置なども行なうとしています。

(2)京セラ◆京セラは、最大出力280Wの太陽電池モジュールを参考出展しました(W1662×L990×H46mm、セル実効変換効率19.1%、モジュール変換効率17.0%)。同社開発の「5本バスバー電極構造」を採用しており、これはバスバーを細線化することで受光面積を広げるとともに、その本数を増やすことでバスバー間の距離を短くして電極の電気抵抗を低減するというもの。この他、セル裏面に表面改質層を作って、従来失われていたマイナス電荷量を低減することで効率を上げ発電量をアップさせる新技術「ForZ」も紹介していました。

(3)三菱電機◆三菱電機は、250Wの住宅用高出力太陽電池モジュールを出展。屋根などで発電した電気を集約する端子ボックスには高い電圧がかかるため、水分の侵入などにより大きなトラブルが発生する場合がありますが、このモジュールには難燃性・耐久性に優れた同社独自の4層構造端子ボックスが採用されています。電力変換効率98%、MPPT(最大電力点追従機能)99.8%の住宅用パワーコンディショナーとの組み合わせによって、日射量の少ない朝夕や曇りの日でも高い発電量を実現できるとのことです。
  
  
  
  
  
(4)パナソニック◆パナソニックは、アモルファスシリコン層とn型単結晶シリコン基板を組み合わせて電荷消失を抑える独自のヘテロ接合構造を採用した、お馴染みのHIT太陽電池モジュールを出展。HITは発電効率が下がる日中の高温時、一般的な太陽電池が10℃上がると出力が約5%下がるのに対し、2.9%しか下がらないとのことです。最大出力320Wタイプは、これまでの240Wタイプのサイズでその出力を実現したもので、19.1%というモジュール変換効率を達成、これにより少ない枚数でシステムを構築でき、BOS(Balance of System)コストの低減が可能になるとアピールしていました。この他、光の反射を和らげる、開発中の防眩タイプ太陽電池モジュールも参考出展していました。
  
  
(5)カネカ◆カネカは、同社が開発したGRANSOLAヘテロタイプの太陽電池を出展しました。ヘテロ接合という点ではパナソニックと同じですが、同社の方式は単結晶シリコンの両面をアモルファスシリコン層で挟んだ構造になっています。同社・単結晶シリコンタイプに比べ、単位面積当たりの発電量は9%アップ、熱の影響を受けにくいので高温時の出力低下が少ないとのことです(モジュール温度70℃の場合で、同社・シリコンタイプに比べて8%出力低下を抑制)。1482×985×35mmサイズで250Wの出力を達成しており、モジュール変換効率は17.1%となっています。
  
(6)ソーラーフロンティア◆ソーラーフロンティアは、同社が開発したCIS系薄膜太陽電池モジュールの施工法「SmaCIS(スマシス)」のデモンストレーションを行ないました。この施工法は屋根の形に合わせて、従来の枚数より多くのモジュールを搭載することができ、施工時間も約20%短縮、仕上げ高さを抑えるとともに、屋根に隙間なく取り付けることでスマートな外観を実現するというものです。CIS系薄膜太陽電池の変換効率については、30平方cmのサブモジュールにおいて19.2%を達成、約0.5平方cmのセル変換効率では22.3%を達成したとアピールしていました。
 
 この取材中、幾つかのメーカーから信頼性を重視する観点からも国内生産にこだわるという声を聞きました。低価格化という面では厳しい選択だとは思いますが、その反面頼もしくもあり、陰ながら応援したいと感じられました。

編集顧問:川尻多加志

 

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シリコンフォトニクスが越えるべき課題

 データ伝送量の爆破的増大によって、既存の技術ではデータセンターや光通信ネットワークシステムは近い将来、限界を迎えると言われています。そこにブレークスルーをもたらすテクノロジーとして、今シリコンフォトニクスに多くの注目が集まっています。

 シリコンフォトニクスの展望と課題をテーマに6月16日、第9回フォトニクス・イノベーションセミナーが、東京大学・駒場リサーチキャンパスの先端科学技術研究センターで開催されました。主催したのは、東京大学・ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構で、今回のプログラム・タイトルは「シリコンフォトニクスの進展と展望」。人々の関心の高さを物語るかのように、会場には多くの人が詰めかけました。

 ナノ量子情報科学技術分野における研究・開発を先導してきた同研究機構は、これまでにも人材育成や成果普及活動として、ナノ量子情報エレクトロニクスに関する大学院講義の他、フォトニクス・イノベーションセミナーやフォトニクス・イノベーション・ビジョンワークショップなどを開催してきました。中でも、今回9回目を迎えたフォトニクス・イノベーションセミナーは学生・社会人を対象としたものと位置付けられています。

 今回行なわれた講演は2本。1本が産業技術総合研究所・電子光技術研究部門シリコンフォトニクスグループ長の山田浩治氏による「ポストムーア技術としてのシリコンフォトニクス」、もう1本は東京大学・大学院工学系研究科電気系工学専攻・准教授の竹中充氏による「異種材料集積を用いたSiフォトニクス」でした。何れの講演でも、シリコンフォトニクスの越えるべき課題と克服の可能性を秘めた研究開発の方向性が示されました。

産総研・山田浩治氏

産総研・山田浩治氏

 山田氏は、情報処理・伝送システムの基本構成要素であるエレクトロニクスとフォトニクスの両方にポストムーア技術が必要と指摘します。続けて、エレクトロニクスにおいてはすでにモアムーア、モアザンムーア、新原理デバイス/アーキテクチャーの三つのアプローチによるポストムーア技術の開発が活発に進められており、これらの技術開発はフォトニクスにおけるポストムーア技術にも適用できるし、特に技術的にエレクトロニクスの流れを汲むシリコンフォトニクスは、ポストムーア技術の開発に即効性ある解を提供するだろうと述べました。
 一方で、山田氏はポストムーア技術としてのシリコンフォトニクスの適用は1回限りで限界を迎えると指摘します。その理由として、シリコンフォトニクスは現実離れした要求加工精度や導波路システムの縮小限界など、本質的に解決が困難な技術的課題を抱えていることを挙げ、シリコンフォトニクス自身がすでにポストムーア技術を必要としていると述べました。
 山田氏は、結局は材料を変えない限り破綻すると警鐘を鳴らし、変調器や受光器などを形成した後の工程において、加工精度が緩くて済むシリコン・ナイトライド系(SiN/SiON/SiOx)の材料を用い、かつ低温で導波路層を形成できるバックエンドフォトニクスやプラズモニクス・デバイスの有用性を示して、講演を締めくくりました。

東大・竹中充氏

東大・竹中充氏

 2本目の講演者、竹中氏はボトムアップからシリコンフォトニクスを捉え、シリコンフォトニクスで何ができるのかを考察。ゲルマニウムや化合物半導体、さらにはグラフェンなどの2次元材料といった異種材料を、ウエハボンディングやエピタキシャル成長を使って電子デバイスと光デバイスへ応用した最新の研究開発事例を紹介しました。
 竹中氏は、異種材料集積技術はシリコンフォトニクスにおいて必須であり、今後ますます重要になるとした上で、これまで不可能だった機能を実現したり、難しかったレベルの集積化も実用化されると述べます。そして、すでにゲルマニウム結晶成長技術の進展によって、ゲルマニウム受光器やFK光変調器なども商用化されており、ウエハボンディングを用いた、より高品質なゲルマニウム薄膜の集積化も可能だと指摘しました。
 さらに、ウエハボンディングによるⅢ-Ⅴ/シリコン・ハイブリッドプラットフォームに関しては、レーザーの一体集積の商用化が始まるなど、近年急速に進展しているとする一方、2次元材料については商用化は遠いものの、優れた物性を有していることから多くの可能性があるとして、今後の研究の進展に期待すると述べました。
 竹中氏は、異種材料だけを用いることで、シリコンフォトニクスでは実現できないようなビヨンドシリコンフォトニクスとも言うべき光電子集積プラットフォームも可能になると述べ、異種材料は電子デバイスにおいても高性能化が実現できると研究開発が進んでいることから「電子デバイスと光デバイスは友達になれる。お互いの世界をウォッチすることが大事だ」と、講演を纏めました。

 今回のセミナーで克服すべき課題が示されたシリコンフォトニクス。研究開発は次のフェーズに移っており、その進展から目が離せません。

編集顧問:川尻多加志

 

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デジタルサイネージに見る4K・8K高精細ディスプレイ

 6月に開催された「デジタルサイネージ ジャパン」では、4Kや8Kといった高精細ディスプレイが目を惹きました。ディスプレイをビジネスとして見た時、コンシューマー向けではどうしても価格を安くしなければならないという条件が強く求められ、消耗戦的な価格競争に巻き込まれがちです。これに対し、デジタルサイネージなどのビジネス向けでは、低価格であるという点の優先順位はそこまで高くはなく、付加価値を付けた商品で勝負ができるという側面を持っています。会場で各社がアピールしていた高精細ディスプレイのいくつかを紹介しましょう。

(1)シャープ◆シャープは、70V型の8Kモニターを展示しました。約3,300万画素(7,680×4,320画素)の高解像度を有し、8K放送以外にもデザイン現場や医療分野、美術館・博物館の展示演出など、幅広い分野で使用できます。業界初の8K解像度でのHDR規格にも対応しており、HDR規格で収録された広い輝度情報を画像処理エンジンによって忠実に再現。また、独自の「メガコントラスト技術」によってエリア毎にLEDのバックライト輝度を制御できるので、輝きを復元する部分では周囲より輝度を高め、夜景などの暗い部分では輝度を抑え引き締まった黒を表現できます。さらに、広色域技術「リッチカラーテクノロジー」によって色再現範囲を、4k・8k放送の色規格であるITU-R BT.2020比79%まで拡大することに成功、自然で豊かな発色を実現しました。同社はこの他にも、70V型のフルHD液晶パネルを縦4枚×横4枚繋げた、縦3,481mm×横6,174mm(280V型相当)の8K4Kパブリックビューイング用ディスプレイや業務用のレーザー光源短焦点プロジェクターも出展していました。

(2)ソニー◆ソニーは、65型の4K有機ELテレビを展示していました。優れた画像処理を実現する同社の4K高画質プロセッサー「X1 Extreme」を搭載するとともに、映像そのものから音が聞こえるという体験を実現するために、画面自体を振動させて音を出す「アコースティック サーフェイス」を搭載。さらに、ベゼルを極限までスリムにして、スタンドやスピーカーも正面からは見えない構造にすることによって、映像だけが浮かんでいるような没入感を実現しています。

(3)BOE◆BOEは、液晶ディスプレイを縦4枚×横4枚繋げた8Kディスプレイや、4K55型3D医療用ディスプレイシステムなどを展示。医療用ディスプレイは、サイドバイサイド方式やラインバイライン方式などの3Dメガネに対応、医療を始めとした産業用システムと接続性の良いSDI入力の他、多様な入力インターフェースを搭載しています。この他、IoTインタラクティブ透明液晶ディスプレイに人感センサーとカメラを搭載した業務用冷凍冷蔵庫とその映像・配信システムも出展していました。

(4)パナソニック◆パナソニックは、3,000lmを超える超高輝度に対応した3チップDLP方式のレーザープロジェクターを展示していました。独自の映像技術「SOLID SHINEレーザー」を採用した3チップDLP方式に、高速画素4倍密化技術「クワッドピクセルドライブ」を搭載。これは、画素を水平方向と垂直方向に高速でシフトさせて4倍密化する「2軸画素シフト光学技術」と、最大5,120×3,200画素(16:10)の高解像に対応する信号処理技術「リアルモーションプロセッサー」によって投射画面の解像度を向上させるというもの。これにより4Kを超える高解像度「4K+」映像を実現しました。

(5)ピーディーシー◆ピーディーシーは、世界初の8K・STB配信システムを展示しました。8K・HEVC(次世代映像圧縮技術)リアルタイムデコードLSIを搭載、日本の放送サービスで採用されたエンコード規格ITU-R BT.2073に対応しており、8K@60Pのビデオデコードを実現します。データ転送にはLANもしくはUSBメディアが利用でき、インターフェイスはPCIe2.0(Gen2)とHDMI2.0TXを実装、8K出力(4チャンネルのHDMI2.0出力)を用いるので、4Kモニターの組み合わせでも8Kを実現できます。

編集顧問:川尻多加志

 

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無線給電に光の出番はあるか

 通信分野ではスマホや無線LANなどの普及によって、ケーブルで配線するという場面が減って来ました。一方、電力は未だケーブルで繋ぐのが一般的です。しかし、最近ではSuicaなどのICカードやスマホにおいて無線給電が実用化され、当たり前のように使われています。むしろ当たり前すぎて、無線給電が使われているなんて、知らない人の方が多いのではないでしょうか。
 ただし、電気自動車(EV)などへの大電力の給電については、未だ太いケーブルに頼っているのが現状です。ところがそれを無線で、しかも走りながらでも行なってしまおうというアプローチが提案されていて注目を集めています。通信に加え、最後に残された有線とも言うべき電力も無線で自在に繋ぐことができれば、これまでとは全く違う新しい社会が実現できるのではないでしょうか。

参加者は優に180名超え

参加者は優に180名超え

 無線給電の領域では現状、電磁誘導やマイクロ波などを利用した方式が主流となっています。では、その無線給電の世界に光技術はどのように係わることができるのか? このチャレジャブルなテーマを掲げた研究会が、6月13日(火)東京工業大学・蔵前会館くらまえホールで開催されました。
 主催したのは応用物理学会・微小光学研究会。144回目を迎える今回の微小光学研究会のタイトルはズバリ「無線給電に光の出番はあるか」。この刺激的なテーマに興味を持つ人は非常に多く、参加者は優に180名を超えました。

 電磁誘導やマイクロ波などに光無線給電が加わることで、無線給電の適用範囲はさらに拡がると期待されています。今回のプログラムは以下の通り、ざっと見て前半が研究開発の進む無線給電技術の経緯・動向について、後半が光を用いた無線給電で、光の出番を模索するといった構成になっていました。

・開会のあいさつ:中島啓幾氏(早大)
・無線化社会を拡げる光無線給電:宮本智之氏(東工大)
・無線給電特許へ光の出番:横森清氏(JST)
・特別講演 宇宙太陽光発電とワイヤレス給電:松本紘氏(理研)
・小形機器向けMHz帯磁界結合ワイヤレス給電技術:細谷達也氏(村田製作所)
・EV用ワイヤレス電力伝送技術の最新動向:高橋俊輔氏(早大)
・KTN結晶を用いた光ビームスキャナーとその光無線給電応用の可能性:藤浦和夫氏(NTT-AT)
・光無線給電用の太陽電池には何が必要か:宮島晋介氏(東工大)
・太陽光励起レーザー/単色光型太陽電池結合発電と自動車へのレーザー給電の可能性:伊藤博氏(名大)
・光無線給電によるナノレーザーとバイオセンサ応用:馬場俊彦氏(横浜国大)
・宇宙太陽光発電におけるレーザー無線電力伝送技術:鈴木拓明氏(JAXA)
・閉会の挨拶:横森清氏(JST)

 丸一日かけた講演すべてをここで紹介するとかなりの長文になってしまいますので、私の独断と偏見で印象に残った講演を二つだけ紹介することをお許し願いたいと思います。

(1)東工大・宮本智之氏

東工大・宮本智之氏

 今回の企画は、東工大の宮本氏が中心になってコーディネイトされたもの。その宮本氏は、トップバッターとして全体を俯瞰する講演を行ないました。宮本氏は、無線化社会への期待と無線給電の現状を述べるとともに、光無線給電の優位性と技術課題を考察、その事例を紹介しながら、光無線給電は新しいサービスや新しい産業を創出するポテンシャルを有していると述べました。
 しかしながら課題もあります。光無線給電はサイズ・伝送距離に優位性はあるものの、レーザー光源や太陽電池のより一層の効率向上が必要であり、かつ安全対策も重要な課題の一つだと指摘しました。現実的には、技術要素はあるもののその取り組みは未だごく僅かだとのことです。今後、光無線給電と既存の方式を組み合わせて、新しい機器・サービス・インフラ開拓などにより真の無線社会の創出を期待すると抱負を述べました。

 特別講演を行なった理研の松本氏の講演内容は、宇宙太陽光発電(SPS)の必要性を文明論を絡めながら説く、大変スケールの大きなものとなりました。松本氏は、エネルギー資源や鉱山資源の残余年数と人口爆発に関するデータを示しながら、地球型文明と人類は危機に瀕していると指摘します。そして「我々は生き残れるのか」と問いかけます。
 解決策として、地球の50万倍もの資源と広大な空間を有する宇宙空間の利用、そのための宇宙開拓を提唱します。そして、当面の1000年は太陽系を開拓すべきだと述べました。ご自身は若い頃に「太陽系を食べたい」というちょっと変わったキャッチコピーを標榜していたそうですが、それを示しながら早急にSPSに取り組むべきだと述べていました。
 松本氏は、マイクロ波伝送を用いたSPS実現に向けた技術的課題を、1万トンに及ぶ宇宙システムと数10億個の素子が必要な宇宙空間に浮かぶ直径数kmの送電アンテナや地上の受電アンテナを如何に作るかだとしました。さらに、自身のマイクロ波伝送研究も振り返りながら、我が国の宇宙基本計画やエネルギー基本計画におけるSPSの位置付けが最近、若干後退しているのではないかとの印象も述べていました。
 松本氏は講演の最後で、人類の生き残りのためには欲望の暴走を抑えなければならないとして「科学技術」と「こころ・精神文化」の調和が必要だと警鐘を鳴らしました。そして、これからは統合の科学が必要であり、それには「日本的調和のこころ」と「東洋的共存の哲学」が重要になるとも述べました。
 さらには、21世紀の方向性は「単純から複雑へ」、「平衡から非平衡へ」、「要素からシステムへ」、「西洋から東洋へ」、「地球から太陽系へ」移っていくと指摘。最後に「未来は、予測するものではなく、自分たちで設計し、創るもの」であると強く述べ「百聞は一見に如かず」という諺に掛けて「百考は一践に如かず」という言葉で講演を締め括りました。

 前述の宮本氏は、光無線給電に関する人や情報の集まる場を準備し、社会への浸透とそれによる社会・経済の変革に向けた枠組み作りをサポートするため「光無線給電検討会」を立ち上げ、2016年1月の第1回以来、これまでに11回の検討会を開催するなど、積極的に活動を続けてきました。7月初旬にも次の検討会の開催を予定しているそうですので、興味のある方は、事務局 tmiyamot@pi.titech.ac.jp まで、ぜひ連絡をしてみては如何でしょう。

 会場で配布された微小光学研究会機関誌の巻頭言の文末には、こう記されていました。「今は普通にある機器から伸びる『尻尾』を、「これはいったいなんだ」と若者に思われる世の中の到来を楽しみにしたい」と。

 次回・微小光学研究会は9月26日(火)、東京大学・先端科学技術研究センターにおいて「今が旬のスマートセンシング・イメージング(仮)」をテーマに開催される予定です。

編集顧問:川尻多加志

 

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レーザーで綺麗に

DSC05257 先日、東京ビッグサイトで開催された「2017 防災産業展 in 東京」で、ちょっと面白いものを見つけました。レーザークリーニング装置のヘッド部分で、展示されていたのは鈴与建設とフォーカス・エンジニアの共同ブース。装置を開発したのはトヨコーという会社で、フォーカス・エンジニアはトヨコーと鈴与建設が共同出資して設立したレーザークリーニング工法による構造物の施工事業を行なう会社です。
 
 塗膜や錆の除去には、これまで対象物にケイ素を吹きつけてクリーニングを行なうブラスト処理や剥離剤による方法が用いられてきました。しかしながら、これらの方法では産業廃棄物が出て処理コストが高額になってしまったり、複雑に入り組んだL字部分やボルトの付け根等では処理に時間がかかってしまうという問題がありました。また、ブラスト処理を行なうと塗膜や錆と同時に下地まで削り取ってしまうので、対象物が傷ついてしまうという問題もありました。

 これに対しレーザークリーニング工法は、レーザー光を直接照射するため、入り組んだ部分に対してもスムーズに短時間で作業ができ、塗膜や錆を溶融・蒸散させながら微粒子を集塵機に吸い込むことで産業廃棄物の発生量を抑え、処理コストを大幅に削減できます。また、瞬時に高温・高圧で一気に除去するので下地を傷めることがなく、除去後に形成される安定酸化被膜による防錆効果で対象物を延命させることもできます。工場内の大型設備の錆取りなど、耐用年数が気になる設備のクリーニングに適しているというわけです。

 同社のレーザークリーニング装置「CoolLaser」はハンディタイプで、ファイバーレーザーの光をヘッド部分で特殊なプリズムに透過・屈折させ、高速で回転させることで円形に照射するという仕組みになっています。これをスライドさせることで面照射を可能にしました。反力が発生しないので女性でも作業ができ、ロボットを使った作業なども行ないやすくなるということです。廃棄物はブラスト処理に比べ100分の1以下とのことです。

 同社は、平成20年から光産業創成大学院大学の藤田和久教授と沖原伸一朗准教授との共同研究をスタートさせたそうです。
 現状ではCWレーザーを用いていますが今後、パルスレーザーを利用して熱ひずみを減らし、版金など薄物への対応や、周波数を変えてカーボン素材表面にダメージを与えないレーザー除去、水中透過率の高いレーザーを用いた海洋土木の表面クリーニングや造船への適用など、その可能性を拡げて行きたいとしています。 
 また、浜岡原子力発電所1号機と2号機の廃炉に向けた二次廃棄物、遠隔操作、処理速度、粉塵飛散防止に関する技術開発を、中部電力、光産業創成大学院大学と共同で進めていて今後、装置の具体化に向け開発を行なっていく計画もあるそうです。

 実用化に関する今後の課題は、レーザー施工現場を念頭に置いた装置や作業面での安全性の確立とのことです。膨大な費用がかかると言われる老朽化した日本のインフラへの適用など、レーザークリーニング技術の進展に注目したいと思います。

編集顧問:川尻多加志

 

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AI、IoTにフォトニクスは如何に貢献するのか

DSCN1048 新緑が目に眩しい5月22日(月)、東京大学・駒場リサーチキャンパスENEOSホールで、第3回フォトニクスイノベーション・ビジョンワークショップが開催されました(主催:東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構)。今回のテーマは「AI-IoT時代に向けたコンピューティング技術とフォトニクス」。いま一番ホットな話題となっている技術領域におけるエキスパートから、最新の研究トレンドとフォトニクスへの期待が語られました。
 
 ワークショップの趣旨説明に立ったのは、東京大学ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構長の荒川泰彦氏。AI、IoT、ビッグデータは、現代の三種の神器とも言われていますが、その進展を支えるのはハードウェア。特にLSIの進歩が果たす役割には非常に大きなものがあります。しかしながら、その技術進歩の指標となっていたMooreの法則は、いま飽和状態に陥りつつあると言われています。このような状況だからこそ、光インターコネクションとそのデバイスに対する期待はますます大きくなっています。荒川教授は、超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクトを紹介するとともに、この4月にそこから生まれた、5mm角IOコアを製造・販売する新会社「アイオーコア」についても紹介しました。

 講演トップバッターの国立情報学研究所・所長の喜連川優氏は、ビッグデータが拓く新たな社会価値の創造について述べました。全国の主要大学等を100Gbpsで結ぶ100GNET(SINET5)が昨年構築されましたが、喜連川所長はクラウドコンピューティングが主流となっている状況でトラフィックが急伸する中、クラウドへの接続が如何にスムーズに行なえるかは、国家としての重要課題だと説きました。また、海外の裁判において人間ではなく、ソフトウェアが6年の懲役刑を下したという事例を紹介、これには時代はそこまで来ているのかという印象を持たざるを得ませんでした。喜連川所長は、もはやビヨンドAIを考えるべきと述べ、日本の国土モニタリングの先進性も紹介、米国DOEの次の狙いにも注視すべきとして、クラウド内における通信の高速化は必須である故、通信にはいくらでも頑張ってほしいと、期待を述べていました。

 東京大学大学院工学系研究科・教授の松尾豊氏は、コンピューティング技術の進化とAIについて、特にディープラーニングを取り巻く状況について述べました。AIブームは1956年からの第1次ブーム、1980年代の第2次ブーム、そして2013年から今日までの第3次ブームと、3回のブームがあったそうで、現在では何ができて何ができないか、すでに固まっている状況とのこと。画像認識の世界においては、コンピューターは人間のエラー率5.1%を2015年2月には越えてしまい、最新の値では3.1%までに到達しているそうです。松尾教授は、カンブリア紀に生物が眼を獲得したことで進化が爆発的に進んだカンブリア爆発を例に、機械・ロボットにおいても眼を持ったことで同じ事象が起きていると指摘、視覚野としてのディープラーニングと網膜としてのイメージセンサーの組み合わせで、産業の自動化が実現できると述べていました。

 東京大学・情報基盤センター長の中村宏氏は、2016年度に同センターが導入したスーパーコンピューターOakforest-PACSとデータ解析・シミュレーションの融合を目指すスーパーコンピューターReedbushを紹介しました。Oakforest-PACSは理論性能25PFLOPS、Linpack性能13.5PFLOPSで、世界のコンピューターランキングTOP500で6位、国内では最高速の性能を誇っています。メニーコア型プロセッサーを搭載していて、汎用性を重視して柔軟な運用ができるそうです。HPIC(ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)の中核をなすもので、全国の主要9大学が使用する最先端共同HPC基盤施設となっているとのこと。ビッグデータの解析や人工知能といった新しい分野の要求を満たすことを目指しており、中村センター長は講演の中でバンド幅が重要と述べていました。

 東京大学生産技術研究所・教授の平本俊郎氏は、Mooreの法則以降のLSIのトレンドとIoTについて述べました。Mooreの法則やスケーリング則をベースとしたLSIデバイスの指数関数的な進歩は曲がり角を迎えており、半導体技術ロードマップ(ITRS)も一定の役割を終えたと言われています。Ai-IoT時代のLSIに要求される機能は、従来の単なる高速性ではなく、各種センシング技術、脳を模した情報処理、数桁の電力低減などであり、その多くは従来技術の延長では達成は不可能といいます。平本教授は、今年の3月、10nmにおいて三つの新技術を開発、5nmは見えたとしてMooreの法則は続くと主張するインテルの考え方を分析するとともに、日本メーカーにはインテルとは違ったビジネスモデルが必要と指摘。28nm、200mmウェハを用いた安価なデバイスが一つの解ではないかと指摘しました。さらに、LSIの進展にはこれまで通り、新しい技術の継続的導入が必要と述べ、電源電圧の低消費電力化が重要であり、特にスタンバイパワーの低減に関しては不揮発性メモリーが有力だと指摘しました。

 光電子融合基盤技術研究所(PETRA)・主幹研究員の森戸健氏は、コンピューター性能の向上に向けたフォトニクス技術について、ネットワーク技術、特に光インターコネクト技術によるデータ伝送の高速・大容量化は不可欠とした上で、同研究所におけるシリコンフォトニクスと高密度実装を基盤としたプロセッサー間光インターコネクト技術の開発の現状と動向を報告しました。森戸主幹研究員は、開発によって光トランシーバーに対する低電力化・小型化に対する要望に応えたいと述べるとともに、今後はCバンドを使ったWDM技術によって大容量化を実現したいとして、低レイテンシーで波長ルーティング機能を併せ持ったデバイスの実現を目指すとしました。光電子集積インターポーザーを第3期の基盤技術として開発する計画とのことです。

 講演終了後、東京大学生産技術研究所・准教授の岩本敏氏の司会のもと、講演者全員によるパネルディスカッションが行なわれました。時には耳が痛い意見も出ていましたが、それはそれで真摯な議論が交わされたという証しとも言えるでしょう。個人的にですが、印象に残ったいくつかの発言を取材メモから紹介します。

・ミシュランで星を獲得している店が日本には多い。調理ロボットとメニュー配信ビジネスによって、日本は食のプラットフォームを獲得できる。
・日本企業は受託生産が出来なかったし、設計するものが日本からなくなってしまった。そういう状況で日本企業は模索している。
・日本企業から寄せられる質問は質が低い。それに比べ海外企業は戦略的であり、お金もかけている。アプリケーションも見ていて、レベルの高い戦いをしている。
・設計者から攻めるべきで、設計者が認めればデバイスも動く。
・産業の全体像を掴んでおくべきで、どこかにチャンスはあるはず。どこかのレイアーを獲ればひっくり返すことができる。
・協業する時に一番苦労するのは日本企業、グローバルな方が楽だ。
・問題意識を共有する場がない。
・あらゆる場で光は沸騰している。

 PETRA・専務理事の田原修一氏による閉会挨拶の後、会場を移して行なわれた懇談会でも、講師の方々を交えた活発な議論が交わされていました。

 ニーズ側の状況を把握していないシーズ研究は、ともすれば独り善がりになってしまうと良く言われます。その意味からも、ニーズとシーズ双方が議論できる今回のようなシンポジウムは大切で、今後も継続的に開催してほしいと思いました。さらに、議論をシンポジウムという場だけで終わらせるのではなく、例えば定期的な個別な場で、より具体的に議論を擦り合わせ、今後の研究に役立ててもらいたいなどと思う次第です。

編集顧問:川尻多加志

 

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光メモリの生きる道

 5月10日から12日までの3日間、東京ビッグサイトで「データストレージ EXPO」が開催されました。この展示会は「Japan IT Week 春 2017」を構成する複数の展示会の内の一つで、規模はそれほど大きくないのですが、当然光ディスクも出展されているだろうと、行ってきました。
 光ディスクは、パソコンやスマホなどに使われているハードディスクや半導体メモリの影に隠れて、最近ではあまり目立たない存在になっているようです。個人的には少し寂しい感があるのですが、一方でその長期保存性が買われて、データセンターなどにおいて、普段あまりアクセスしないコールドデータを保存したり、放送局などのアーカイブ用に結構使われています。会場を歩いて見つけた光ディスク・システムを紹介します。

ソニー ソニーのオプティカルディスク・アーカイブは、堅牢性が高い複数枚の業務用光ディスクを格納したカートリッジと、これを制御する高速ドライブからなる光ディスクストレージシステムです。2012年の発表以来、放送・業務用映像アーカイブを中心に、金融機関、教育・研究機関などに採用されているそうです。
 ディスクには、パナソニックと共同開発した業務用次世代光ディスク規格「アーカイバル・ディスク」を採用しています。その進化は現在第2世代に入っていて、両面合計6層構造とランド&グルーブ方式による高密度化で、1枚当たり300GBの光ディスクを11枚を収容してカートリッジ1枚で3.3TBという大容量化を実現しました。
 高速化については、8チャンネル光学ドライブを搭載したユニットを新たに開発。これは、表裏4個ずつ合計8個のレーザーヘッドでディスクの両面を同時に読み書きするというもので、読み出し転送速度2Gbps、書き込み転送速度1Gbpsを実現しています。ちなみに「アーカイバル・ディスク」の第3世代では容量が5.5TB、読み出し転送速度3Gbps、書き込み転送速度は1.5Gbpsになるそうです。
 長期保存性についても、第1世代が50年以上だったものが、第2世代では100年以上に伸びています。ライブラリーの拡張性については、カートリッジを30巻搭載する99TBタイプから535巻を搭載する1.7PBタイプまで、柔軟にシステムの拡張ができるとのことです。無通電でカートリッジを管理できるので、1.7PBのストレージをわずか700W程度の消費電力によって管理でき、大幅なトータルコスト削減を実現できるということです。
 同社では、ロボットを使ったさらに大規模な光ディスクライブラリーシステム「EVERSPAN」の技術紹介も行なっていて、光ディスクに注力する姿をアピールしていました。

三菱ケミカルメディア 三菱ケミカルメディアは、パイオニアと共同でアーカイブ用光ディスクと光ディスクライブラリーを出展しました。両社は、光ディスクアーカイブシステムを推進するために2012年、推進団体「OPARG」を設立しています。
 光ディスクの開発・製造を担当する三菱ケミカルメディアの業務用ブルレイディスク(BD)は、第三者機関であるADTC(アーカイヴディスクテストセンター)によってBD-Rの100GBモデルで推定寿命200年以上という評価を得たとしています。耐久性についても、1週間の海水浸漬試験でデータ再生が可能であることを確認しているそうです。一方のパイオニアが開発した光ディスクアーカイブシステムは、この光ディスクとRAID(安価で低容量なハードディスクを複数使った補助ストレージ装置)を組み合わせたものとなっています。

ユニテックス この他、ユニテックスはLTO(Linear Tape Open:コンピューター用磁気テープのオープン規格)装置を展示する傍ら、CD/DVDディスクパブリッシャーも出展していました。ヘッドを変えることでBDも使用できるというもので、データの書き込みからレーベル印刷までを100~200枚連続高速処理ができるそうです。
 
 

 音楽や動画などをパッケージメディアで楽しむ人は、以前よりだいぶ少なくなりました。その結果、光ディスクはメモリーにおける主役の座を譲った感もありますが、一方で長期信頼性というような特長を活かした適用分野において、決して派手ではありませんが、とても重要な役割を果たしています。

編集顧問:川尻多加志

 

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光の日

 3月8日は「光の日」ですが、その日がなぜ「光の日」になったのか、由来をご存知でしょうか? 答えは、光の速度が3×10の8乗m/sで、その数字の中から「3」と「8」をとって「光の日」としたそうです。制定したのは日本学術振興会・光エレクトロニクス第130委員会(学振130委員会)で、制定した2007年以来いろいろな活動を行なってきたということです。
 今年の「光の日」には、同委員会と日本光学会、レーザー学会、応用物理学会フォトニクス分科会の主催によって、東京・茗荷谷の筑波大学東京キャンパスで第1回の「光の日」合同シンポジウムも開催されました。
 
 光は医療やエネルギー、情報、通信、一次産業、天文、建築等に関わるあらゆる科学技術に応用され、人類の幸福、芸術、文化などの発展に貢献してきました。そして、今後ますますの進展が期待されています。
 まだ記憶に新しい2015年の国際光年では、内外で様々なイベントが催されましたが、このシンポジウム、国際光年終了後も継続して振興を図ろうと、これら光関連学会が毎年3月8日に合同記念イベントを行なうことを提案して、開催に至ったそうです。

 シンポジウムは、宮本智之氏(東京工業大学・准教授)の「開会の辞」で始まり、小林駿介氏(山口東京理科大学・名誉教授)の「『光の日』制定について:フォトンの不思議と恩恵」、中井直正氏(筑波大学・教授)の「南極で切り開く天文学-南極望遠鏡計画-」、美濃島薫氏(電気通信大学・教授)の「光コムによる光波の超精密制御とその応用」、石川哲也氏(理化学研究所・放射光科学総合研究センター長)の「X線自由電子レーザー(XFEL)施設『SACLA(さくら)』」、河田聡氏(大阪大学・教授)の「光の顕微鏡:収差と波長の壁を超えて」、荒川泰彦氏(東京大学・教授)の「量子ドットがもたらす光技術の新展開」、伊賀健一氏(東京工業大学・名誉教授)の「光の日、音の日:光エレクトロニクスの玉手箱より」と続き、神成文彦氏(慶應義塾大学・教授)の「閉会の辞」で幕を閉じました。講演終了後は、場所を茗渓会館に移して懇親会も開かれ、出席者全員で「光の日」をお祝いしました。

小林駿介 山口東京理科大学名誉教授

小林駿介 山口東京理科大学名誉教授

 「光の日」制定を提案した学振130委員会の当時の委員長、小林名誉教授は当時を振り返り、同委員会の45年間の研究活動記録CDの序文に記された制定趣旨説明文を紹介していました。そこには、こう記されていました。「ここで、われわれは、光の科学技術を研究している者として、われわれは光に感謝し、敬意をしめし、かつ親しみを込めて、3月8日を「光の日」とすることに決定しました。3月8日を「光の日」と選んだ理由は光の速さが真空中で3×10の8乗m/sであり、光は吸収されない限り休むことなく走り続けるからです」と。

 荒川教授によると、日本学術会議総合工学委員会ICO分科会ではメイマン氏がレーザー発振に成功したと言われる5月16日を「国際光デー」にすると決めたそうです。
 そうなると、国内と海外で「光の日」が二日あるということになりますが、あまり細かいこと言わないで、めでたい日が一年に二日もあるという感じで捉えて、どちらも大事にしていきたいと思いますね。

編集顧問:川尻多加志

 

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光技術は医療・ヘルスケアをどう変えるのか

 安全・安心で持続可能な社会を実現するためにも、医療分野と工学の連携による新しい診断、治療、ヘルスケア機器の開発が必要と言われています。その最先端研究の一端が、秋葉原UDXカンファレンスで開かれた第6回電子光技術シンポジウム(主催:産業技術総合研究所(産総研)電子光技術研究部門、共催:光産業技術振興協会(光協会))で披露されました。
 
 産総研・電子光技術研究部門では電子技術と光技術、およびその融合領域に関する最先端の研究開発と新産業創出の展望に関する情報を提供するため、同研究部門を中心とした産総研の研究成果を紹介するシンポジウムを毎年開催しています。今年度のテーマは「光技術の医療・ヘルスケアへの展開」、5件の招待講演を含む10件の口頭発表が行なわれました。
 

開会挨拶をする金丸正剛氏

開会挨拶をする金丸正剛氏

 
 「開会挨拶」に立った産総研・エレクトロニクス・製造領域長の金丸正剛氏は「研究開発側から見ると、医工連携がこれまでなかなか進まなかったのは技術がまだまだ成熟しておらず、現場で使うには十分でないということも大きな原因ではなかったかと思っている。今回のシンポジウムでは産総研における十数年の開発の中で、技術的にもかなりの進歩を遂げ、実際の現場との連携も非常に活発化しているという状況を知っていただきたい」と述べていました。
 
 
 一方、続いて登壇した光協会・専務理事の小谷泰久氏は「これまでのクラシカルな光技術領域では、技術が成熟して新しい動きが出にくくなっている。その代わりにIoTやAI、ロボット、自動車、医療・健康分野などへと応用領域は拡がっている。気をつけるべきは、光技術はこれまで最先端の性能を追い求めてきたが、例えば自動車や医療分野ではそのような性能より温度環境性や安全性・信頼性といったものが重要視される。求められるものが移ってきている」と述べていました。

 午前中の口頭発表のトップバッターは、産総研・健康工学研究部門・副研究部門長の鎮西清行氏で、講演タイトルは「医工連携における産総研の活用方法」、産総研における医療機器開発支援システムを紹介しました。続いて「光を用いた生体計測-細胞から個体まで-」を浜松ホトニクス・中央研究所・主幹の山下豊氏が講演。その後、産総研・電子光技術研究部門の黒須隆行氏による「光パスネットワークによる超高精細映像伝送とその医療応用」の講演が行なわれ、光による細胞・個体計測や8K画像を使った遠隔医療などが紹介されました。
 
 昼食をはさんで、午後は「レーザによる革新的な非熱的不整脈治療装置:我が国発技術の実用化」と題し、慶應義塾大学・理工学部・教授の荒井恒憲氏が不整脈治療装置の開発事例を紹介。続く産総研・電子光技術研究部門の研究成果報告では「低侵襲プラズマ止血装置の開発・実用化と国際標準化」(榊田創氏、池原譲氏)、「超短パルスレーザー加工と人工関節への応用」(屋代英彦氏)、「白色パルス光プロセスと無電解めっきを利用した手術器具作製」(島田悟氏)が紹介されました。

 休憩の後、オリンパス・モバイルシステム開発本部・部長の溝口豊和氏は「マルチスペクトル撮像デバイス技術」を講演、マルチスペクトル撮像によるデジタル病理診断を紹介。大阪府立大学・大学院工学研究科・教授の久本秀明氏は「医療・バイオ分析応用を目指す高機能材料集積型マイクロ分析デバイス」の中で、化学修飾したキャピラリー型マイクロ分析デバイスを紹介して、最後の講演は産総研・電子光技術・研究部門の安浦雅人氏による「近接場光を利用した微生物高感度検出」、光散乱の光信号用微粒子と磁気微粒子を使った微生物検出の研究事例を紹介しました。
 
 広帯域で低侵襲、空間並列といった特長を有する光技術は、イメージング機器として医療現場で幅広く利用されるとともに、新たな医療・ヘルスケア機器を創出することが期待されています。今回のシンポジウムで紹介された医工連携や光技術を用いた低侵襲治療技術、革新的デバイスや手法を用いたイメージング・センシング技術等の研究開発動向には今後も目が離せません。

編集顧問:川尻多加志

 

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自動運転技術進展の鍵を握るフォトニクス

 いま一番ホットな話題の一つとして取り上げられることの多い自動運転。リーガロイヤルホテル東京(東京 新宿区)で開かれた「平成28年度光産業技術シンポジウム」(主催:光産業技術振興協会、光電子融合基盤技術研究所)では、この自動運転やロボットなどの領域にフォトニクス技術がどのように適用されて行くのか、最新の状況が紹介されました。
 シンポジウム今年のテーマは「未来の自動車・ロボット・産業機械を支えるフォトニクス」。自動運転とセキュリティ、ロボットの進化、LiDAR技術、自動車フォトニクスのテクノロジーロードマップ、医療イメージング、さらに光エレクトロニクス実装システム技術の開発について、各分野のエキスパートが講演を行ないました。

 冒頭、「開会挨拶」に立った光産業技術振興協会・専務理事の小谷泰久氏は、政府の掲げる日本再興戦略の中で日本経済の未来を切り開く第4次産業革命の重要技術であるIoTや人工知能、ビッグデータといった革新的技術を使って如何に新しい商品やサービスを生み出すかが重要とした上で、光センサーや光通信ネットワーク、車載用カメラ、車載ネットワーク、医療・健康分野における画像処理技術といった様々な光技術は、そこで役に立つ技術であると述べました。

 経済産業省・商務情報政策局・情報通信機器課長の三浦章豪氏は「来賓挨拶」の中で、成長ががすべての前提であり、第4次産業革命、AI、IoT、ビッグデータを如何に社会に実装させていくか、言葉だけでなく実際に儲ける事を考えなければいけない時期に来ており、新しいビジネスモデルを作って行く必要があると述べました。また、日本としては最先端の技術を開発して、世界に先駆け商品化してグローバルに売って行くということを続けて行かなくてはならないとして、光技術にはまだまだ伸びしろがあり、最大限のサポートをして行きたいと述べました。

 この後に続く基調講演は「自動運転と制御系セキュリティ」と題して、電気通信大学・情報理工学研究科・教授の新誠一氏が講演。21世紀の自動運転に不可欠な技術として、高精度カメラと画像プロセッサー、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の組み合わせを挙げるとともに、光通信技術は近未来の自動運転車の電磁障害対策に効果的だと指摘。さらにサイバーセキュリティの確保も自動車業界にとっては急務であり、中期的に光化への期待が大きいと述べていました。

 招待講演は全部で4本。1本目の「Amazon Picking Challengeとロボットの進化」を講演したのはPreferred Networks・エンジニアの米辻泰山氏です。「Amazon Picking Challenge」というのは、Amazonが主催するロボットコンテストで、倉庫の棚から商品をピッキングするという作業をロボットで競うというもの。米辻氏のグループは短い準備期間の中、Pick部門で2位(得点は1位タイ)、Stow部門で4位という好成績を収めました。センサーにはDepthカメラとLiDARを使用、画像のセグメンテーション問題ではディープラーニングを用いたそうです。現在は製造業がメインのロボット適用の可能性を物流分野でも示せたと述べていました。

 「自動運転を実現するLiDAR技術」を講演したのは、パイオニア・自動運転事業開発部・技術研究部長の村松英治氏で、自動運転におけるLiDAR技術の役割と現状の課題を紹介。走行空間センサーとして周辺環境認識を行なう機能だけではなく、自動運転用高度化地図との組み合わせによる自動位置推定、地図生成を行なうLiDAR技術のコンセプトと同社の取り組みを解説するとともに、LiDARにおいては従来型のリッチな汎用センサーではなく、車載アプリに特化した小型で低コストな専用センサーが求められるとして、同社の開発事例を紹介しました。

 「光テクノロジーロードマップ-自動車フォトニクス-」を講演したのは、東京工業大学・工学院・電気電子系・准教授の西山伸彦氏。西山氏は、ロードマップを作った光産業技術振興協会の自動車フォトニクス・ロードマップ策定専門員会の議長。講演では、自動運転開発においてフォトニクスに何ができるかをテーマに話が進められました。車外状況検知用センサーでは、あらゆる状況でも遠方を監視することが求められ、将来的には赤外カメラも加わりカメラの高解像度化が進むとして、測距技術ではメカレス型のLiDARで解像点数、フレームレートの向上が進んで行くと述べました。HMI(Human Machine Interface)技術においては、レベル3では覚醒状態検知・判断の高速化が求められるため、表示技術の高度化・高解像度化が必要になる一方、レベル4になると、この表示技術は車内エンタテイメント用で使われると述べました。さらに通信技術においては、車内では400Gbpsクラスの光ハーネスの実現が必要であり、車外においては低遅延で小規模大量パケットなど、従来のインターネット通信に加えた特殊な通信が必要と指摘しました。

 招待講演最後は、メディカル・イメージング・ コンソーシアム副理事長の谷岡健吉氏による「8Kテレビ技術とその内視鏡手術への応用」で、8K技術の概説と医療応用での数々の利点、普及のための技術面での課題、展望を紹介しました。谷岡氏は、技術課題として超高感度な8Kイメージセンサー実現のためのHARPの固体化を挙げるとともに、ディスプレイにおいては価格や視野角、軽量化・薄型化においてまだ問題が残っているとした上で、慶應義塾大学の小池教授が開発した高性能プラスチック光ファイバーやボールペン型インターコネクト技術の適用や産業技術総合研究所の「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」との連携によって、8K遠隔医療の実現を図りたいと述べていました。

 最後の講演は、光電子融合基盤技術研究所・CPU間インターコネクト・テーマリーダーの土田純一氏の「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発~光I/Oコアの性能とシステム評価」。プロジェクトの概要、光I/Oコア、光I/O付きLSI基板、光電子集積インターポーザ―を実現するための集積光デバイス技術の開発の狙いと開発進捗を報告しました。さらに、開発中のFPGA(Field Programmable Gate Array)と光I/Oコアを用いたボードの概要とシステム評価の進捗および今後の取り組みについても報告。具体的成果として、光I/Oコアにおいて低消費電力(5mW/Gbps)・超高速(25Gbps×12ch)のチップサイズ(5mm角)トランシーバーの実現、光I/Oコアを用いたMMFでの25Gbps、300m伝送の実現、FPGA周辺に光I/Oコアを実装してBtoB、300mの伝送実証等を挙げていました。

 今回のシンポジウム、あくまで個人的感想ですが、自動運転に関して重要なのはダイナミック・マッピングであり、少し大げさに言えば地図を制する者が自動運転を制するのではないだろうかという印象を受けました。

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏  写真左:後列左から 古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏  前列左から 櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏 光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

写真右:東京工業大学 小山二三夫氏
写真左:後列左から
古河電気工業 黒部立郎氏、同 越浩之氏
前列左から
櫻井健二郎氏記念賞委員会 委員長 荒川泰彦氏、古河電気工業 向原智一氏、同 木村俊雄氏
光産業技術振興協会 専務理事 小谷泰久氏

 なお、シンポジウムの終了後には、同じ会場で恒例の櫻井健二郎氏記念賞の受賞式が行なわれました。櫻井健二郎氏記念賞は今回で32回。応募13件の中から受賞したのは「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」を行なった古河電気工業の向原智一氏、木村俊雄氏、越浩之氏、黒部立郎氏の四名と「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」を行なった東京工業大学・未来産業技術研究所・教授/所長の小山二三夫氏でした。

 「デジタルコヒーレント通信用狭線幅波長可変光源の開発と実用化」では、デジタルコヒーレント通信用光源の開発に取り組み、多数のDFBレーザからなる多波長アレイと複数の光機能素子を同一基板上にモノリシックに集積する化合物光半導体技術や従来に比べパッケージ体積を半減化する樹脂接着技術、並びに高性能な制御電子回路技術の開発により、世界最高水準の高出力・高安定の狭線幅波長可変レーザ光源の実現に成功、デジタルコヒーレント通信の発展・普及に貢献したことが評価されました。

 もう一方の「面発光レーザを中心とするフォトニクス集積技術の開発」は、伊賀健一・東京工業大学名誉教授(第3回:1987年度受賞)とともに面発光レーザ(VCSEL)の室温連続発振を1988年に世界で初めて達成し、以来その性能向上と新機能創出に関する研究を継続、MEMSミラーによる波長制御やスローライトなどの新機能を包含するVCSEL集積フォトニクスの道を切り拓き、データセンタにおける光インターコネクトや日本初のレーザプリンタなどの技術発展を触発、光産業技術の新しい展開に大きく貢献したことが評価されたものです。

編集顧問:川尻多加志

 

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